Episode:50
急いで目をそらしたために、中が見えなかったのは幸いだった。
若い娘のスカートの中ならまだともかく、オヤジの下着など見たくない。
というかこの情報屋の場合、そういう知識が欠けているから、最悪「何も履いていない」可能性だってある。
いくら銀河を渡り歩いてきたエルヴィラでも、そんなモノはさすがに見たくなかった。
「とっ……とりあえず、下半身映さないで!」
「えー」
情報屋が不満そうな声をあげる。
「せっかくフルで用意したのに」
「気持ちは分かるけど、その下半身はヤメて……」
なぜこの情報屋、毎回こうも見事な精神的ダメージを繰り出すのだろう?
そこへ横槍が入る。
「いいじゃありませんかおばさま、せっかく用意なさったみたいですし」
つくづくこの姪っ子、感覚が地球人ではない。もしかしたらさっきのスカートの中身も、平然と見ていたのではないだろうか?
だがそれとこれとは別の話だ。ただの通信で、精神的ダメージをこれ以上増やしたくない。
「用意してくれた気持ちはありがたいけど、絶対イヤっ!」
「ったく仕方ねーなぁ」
ぶつくさ言いながらも、情報屋は映る範囲を上半身だけにした。
「これでいいか?」
「うん、ありがと、かなり違う。で、何の用?」
先日とは逆にエルヴィラから切り出すと、思い出した、という調子で情報屋が手を叩く。
「あの宇宙蝶のデータ、売れたぜ」
「ほんと? 早いわねー」
まさかこんなに早く、収入につながるとは思わなかった。
「いい感じで売れたぜ。あ、今そっちに振り込むわ」
エルヴィラが地球で言う「口座」に当たるものを見ている目の前で、残額が増えた。
「ちょっとこれ、ずいぶん多いわね」
「ふっかけたのさ」
情報屋が笑う。
「あいつら、相当焦ってたらしくてよ。期限迫ってたんじゃねぇか?
んで、アカデミーの十五倍出してきた。
あとついでに、アカデミー自体にも売ってやったぜ」
「さすが……」
長年情報屋としてやってきただけのことはある。この辺の抜け目のなさは、エルヴィラもかなわなかった。
「ま、そういうわけでその額さ。
こっちとしても稼がせてもらったし、ありがとなー」
「こっちこそありがと。……あ、そうだ」
ついさっきまで調べていた、ネメイエス第四惑星のことを思い出す。
「救世主とか言うなら、今あたしたちがどこにいるか知ってるでしょ?」
「ネメイエス星系だろ」
打てば響くような答えが返ってきた。