Episode:05
「そのカッコってば何……しかも、その言い方もおかしいし」
この情報屋、エルヴィラたちと縁を持ったのがきっかけで、地球の文化に興味――売り物になると思ったのだろう――を持ったらしい。
で、研究に余念がないのだが、そうやって得た知識がどれも何か微妙におかしかった。
「えー? この間手に入れた映像じゃ、こう言ってたぞ?」
「その言い方、ビジネスじゃ使わないってば」
「おっかしいなぁ、地球人の若い女性相手にはこう言うと喜ぶ、ってなってたのに」
一体何を見たのだろう? モテるためのノウハウ集か、あるいは映画か。少なくともビジネスマナー集ではないのは確かだ。
「うーん、やっぱアンタに教わったほうがいいんかな?」
「タダじゃイヤ。で、もう一回聞くけど、その服装なに?」
「ん? いいだろー」
さっきの言葉と同じように、どこかで情報を仕入れて真似してみたのだろう。本人はいたくご機嫌だ。
「地球じゃこういう服、人気あるんだってな」
「……一部だけならね……」
確かに局所的には、喝采を浴びる「人気の」服装だが。それにしたって中身が熊オヤジでやられたら、むしろ精神公害だ。
当の本人は楽しそうに続けていた。
「あと俺、そっちで言う男性に当たるだろ。んでこういう筋肉の発達した男性が地球じゃ女性に人気あるっていうから、組み合わせてみたんだよ。なかなかだろ?」
頭がくらくらしてくる。
彼に悪気は全くない。それどころか、エルヴィラに対してかなり親切と言っていい。
何しろ宇宙では種族的な違いが大きすぎて、相手に合わせることが「できない」。だから相手に合わせなくても、なんら問題がない。
そういう常識の中で、彼は地球人風の格好をしたり言い回しをしたりするのだから、破格の待遇だ。
だがそうは言っても、やはり熊オヤジのバニーガールは願い下げだった。
「ごめん、やっぱその格好ヤメて。精神的にきっつい」
「え、そうなのか?」
情報屋が、心底「意外」という表情になった。やっぱり微塵も、自分のやっていることに疑いを持っていなかったのだろう。
本当はこういうことを教えるのも情報料を取れるんだけど、そう思いながらエルヴィラは口を開いた。そのくらい、バニーガールな熊オヤジの破壊力は凄まじかったのだ。
「大抵の地球人、それ見たら倒れかねないから」
「なんかよく分からんが、まぁそういうことなら変えるよ」
「あ、じゃぁ前回のにして」
思わずエルヴィラはリクエストを入れた。もしかしたら料金を取られるかもしれないが、またおかしな格好を見せられるよりはマシだ。
だが幸い、情報屋は代金のことは口にしなかった。リクエストが嬉しかったらしい。
「おっけー、ならそれにするわ。ちょっと待っててくれな」
言葉と同時に映像が切れ、エルヴィラは大きく息を吐く。あの熊オヤジなバニーガールを見なくて済むというのが、こんなにありがたいものだと思わなかった。