Episode:48
病気では、同じ場所で同時に人が死ぬことはあまりない。かといって何かの爆発なら、もっと建物が壊れるはずだ。
建物の壁などをすり抜け、なおかつ即効性のありそうなものというと、毒ガスと放射線くらいしか思いつかない。
だが毒ガスで惑星放棄と言うのは、さすがに考えづらかった。
そしてもう一つ思いついた放射線も、銀河レベルの技術にかかれば、実はさほどの脅威にならない。
たしかに不意打ちを食らえば、その時その場は大騒ぎになる。
だが苛酷な環境の宇宙を、超高速で駆ける文明だ。
被害の拡大を食い止めるのはそんなに難しいことではなく、被害を受けた建物一つをしばらく立ち入り禁止にすれば十分なはずだ。
つまり放射線が少々出た程度では、星を棄てる理由にならない。
そもそも惑星全土を、わざわざ放射線で満たす理由もない。
地球人なら核戦争あたりを考え付くが、ここは銀河文明だ。
嫌な話だが、もっと効率がいい兵器などゴロゴロしている。時代遅れの核兵器など、誰も使わないのだ。
(なんだろ……?)
皆目見当がつかなかった。
もしかしたら今回騒ぎになっているガンマ線バーストかもしれないが、だとしたらずいぶん不運な星系だ。
天文学的な確率の災害に二度も遭うなんて、宝くじに当たるより難しい。
〝未知の何か〟とも一瞬思ったが、エルヴィラはそれ以上考えないようにした。
未知ということは対処不能ということで、うっかりすれば自分も死ぬということだ。
で、それを防ぐにはここの探検をやめればいいわけだが、さすがにそれはしたくない。
何でも地球人は、銀河系の中でも好奇心が強い部類らしい。
その一人であるエルヴィラも同様に、これだけの「秘密」を目の前にされては諦めきれない。
(深入りしすぎなきゃ、いいよね)
そうエルヴィラは、自分に言い聞かせた。
「あとはどちらへ?」
いつもと同じ口調で、姪っ子が訊ねる。
「うーん、とりあえずここをざっと見て、今日のところは一旦戻ろうかなって」
「あら。もっと無計画に回るかと思ってましたのに」
最初はそうしようと思っていた、とは流石に言えなかった。
内心は見せないように気をつけながら、何食わぬ顔で返す。
「予想とだいぶ違うみたいだから、一旦帰って下調べしようと思って」
「……明日、いきなりこの惑星が壊れないことを祈りますわ」
要は「らしくない」と言いたいのだろうが、言い返すと面倒なので、エルヴィラは無視した。
「さ、とっとと次行こ。結構下調べ、かかる気がするし」
少し不審そうなイノーラを待たず、歩き出す。
「おばさま、勝手に歩き出さないでください」
言いながら姪っ子が、ついてくる気配がした。