Episode:47
「ほ、他には? 何か動いてたりしないよね?」
「他ですか?
――動くものは、特にありませんね。質量等から見て、同様の遺骸だけかと」
「そ、そう……」
これでゾンビでも居たらたまらないが、とりあえずは大丈夫そうだ。
とは言え、薄気味悪いことには変わりない。身体に降りかかった死体のかけらを払ってから、恐る恐るエルヴィラは奥へと歩みだした。
部屋から廊下らしきところへ抜け、別の部屋を覗く。ここもドアはなく、シールドをドア代わりにしていたようだ。
「やっぱ、ここにもあるんだ……」
思わず声が出る。
あまりドアから近くないところだからよかったものの、ここにもあの死体があった。
それも二体も。
「大小ありますね。家族でしょうか」
そのへんの野菜の大きさでも言うように、イノーラが評する。
「よく平気だね」
「何がですか?」
言われていることが全く理解出来ない、姪っ子がそんな表情を見せ、続けた。
「生命活動が停止した生体が、何か問題でも?
素手で触れば別ですが、スペーススーツを着ている状態では病原体も化学物質も危険はないと思いますけど」
続くイノーラの答えは、どう考えても地球人とは言い難い。
内心頭を抱える伯母を余所に、彼女は話し続けた。
「もしかしたら残留思念や何らかの念波を心配なさっているのかもしれませんけど、このスペーススーツには、そういうものを防ぐ仕組みも備えています。
それも忘れるなんておばさま、やっぱり脳が相当老化なさってるんじゃありません?」
「……ごめん、訊いたあたしが悪かった」
姪っ子の答えは極めて合理的だ。合理的すぎて、情緒というものがない。
そんな彼女にエルヴィラの恐怖感を理解しろという方が、無理難題だった。
徒労感に全身を掴まれながら、エルヴィラは部屋の中へと歩を進めた。
荒らされた様子はない。部屋の中は物はすべて、蜂の巣を思わせるような幾何学的な配置だ。
地球人の感覚で異星人の住まいの状況を推し量るのは難しいが、それでも慌てている時に、部屋をこれほど整えたまま動くのは、さすがに難しいだろう。
そういったことから考えると、少なくともこの部屋の住人は、突然死した可能性が高そうだ。
(けど、いったい何が……)
腑に落ちない。
ここにこうして死体があるということは、それを片付けることさえなく、ここが放棄されたことを意味する。かなりの緊急事態だ。
だがそれを引き起こすものとなると、ぱっと思いつくのは、毒ガス、病気、爆発、放射線くらいだった。
(放射線かなぁ? でも無いよねぇ)
そんなふうにぼんやり思う。