Episode:46
「んじゃ、どうしてたんだろ? 何もなかったら、泥棒とか入り放題じゃん」
彼女が図に乗るのを承知でエルヴィラは聞いた。要するに姪っ子は、威張ってみたいだけなのだ。
「おそらく、シールドですわ。この開口部全体に、それらしき部材が嵌められていますから」
「え? あ、ホントだ……」
言われて良く見てみれば、たしかに滑らかな金属で出来た枠が、開口部に嵌められていた。その色や質感が、銀河系の船に良く使われる、シールド発生装置に似ている。
なんだかめまいがした。
星の海を渡って移民するくらいなのだから、こういう技術があって当たり前なことは、頭では理解できる。
だが半分は地球で育ったエルヴィラにとっては、夢のような技術だ。
――それが、無造作に使われている。
地球でも地域によって文明の格差はあったが、銀河の格差はそれ以上だ。
そんなレベルの相手に立ち向かって、地球を取り戻せるだろうか? そんな弱気がエルヴィラを襲う。
「……おばさま? ぼうっとして、頭でもどうかしまして?」
相変わらずの毒舌が、エルヴィラを物思いから引き戻した。
「ううん、さすがだなーって思っただけ」
思ったことはカケラも見せず、何食わぬ顔で建物の中へ視線をやる。
「行こっか」
言ってエルヴィラはシールドの向こうへと一歩踏み出し――その場で凍りついた。
何かが横から倒れかかってきたのだ。
「ちょっ、やっ、なにこれっ!」
「有機体に見えますが」
一歩遅れたために被害からまぬがれた姪っ子が、冷静に答える。
「ゆ、有機体でも何でも! やだもうっ!」
降りかかってきたのは、青くてかさかさした何かの残骸だ。菜っ葉や虫が乾燥したら、多分こんなふうになるだろう。
ただし、大きい。
エルヴィラの背丈を超える。
身をよじって振り払うと、どさっという音を立てて〝それ〟は床に落ち、一部が砕けた。
「なんなのよ、お化け屋敷じゃあるまいし」
「お化け屋敷かどうかは知りませんが、有機体ですわね。状況や形状、大きさから見て、外骨格を持つ生き物の死骸では?」
イノーラの言葉を理解するのに、数秒かかった。
「し、死骸って……つまり死体?!」
「はい」
姪っ子の答えに、エルヴィラの背筋を冷たいものが這う。
――入っていきなり死体があったということは。
「まさかここ、こういう死体だらけ?」
「お待ちを。スキャンします」
少しの間を置いて、イノーラが淡々と告げた。
「この建物内、スキャンできる範囲に同様のものが点在しているようですね」
「ひぃ……」
思わずヘンな声が出る。これでは墓標のように「見える」のではなくて、正真正銘の墓標だ。




