Episode:45
「どこへ向かいます?」
「うーん……とりあえず、近場?」
あちこち見て回りたい気もするが、この廃墟をうろつくのは気が進まない。
「では、すぐそこの建物へでも」
イノーラが指差した先には他に比べれば小さいが、それでも目眩がしそうなほどに大きな氷柱が伸びていた。
落ちていかないよう斥力場を調整して、宙へ踏み出す。
「これ、ホントよく出来てるよね」
「別に珍しいものではありませんけど?
いくら地球出身だからと言って、未開人のような言動は慎んでくださいね」
銀河育ちのイノーラから毒舌が返ってきたが、それでもエルヴィラにしてみると、この斥力場は驚異だった。
なにしろ、空中を「歩ける」のだ。
重力を相殺して身体が羽のように軽くなった上、宙を足で文字通り「蹴る」ことが出来る。
どうも重力の方向を感知して、身体の下側に斥力場を展開するらしいのだが、エルヴィラの理解は今ひとつだった。
――頭のいい姪っ子は、そうやって分からずに使っているのが気に入らないようだが。
けれど、すぐに分かるような簡単なものではないのだ。とりあえず使えるからいい、エルヴィラはそう割り切っている。
ぶつぶつと責めるイノーラは無視し、エルヴィラは目的の氷柱へと足を進めた。
そのスピードは、地球で走るのに比べてかなり速い。
身体が軽い上に、宙を蹴って走るというより飛んでいるから、キロ単位の長距離もあっという間だ。
氷柱が目前に迫る。
「どんだけあるんだろう……?」
「これは全長一キロくらいかと」
とんでもない規模だ。しかもそれが壊れたりせず、遺棄されたままの状態で残っているのだから凄い。
無人になったのは、どう考えてもネメイエスの神話の時代の話だろう。
ならば最低でも、数千年。ヘタをすれば一万年以上。
その間朽ちない技術は、銀河レベルでなら確かに存在するが、地球人思考のエルヴィラには理解の範疇を超えていた。
あまりのスケールに圧倒されながら、入れそうなところを探す。
「この構造を見る限り、窓から出入りしていたのでは?」
姪っ子が建物を指差しながら言った。
無限の階層が積み重なった氷柱は、どれも階ごと窓ごとに、テラスのようなものが着いている。出入りするにはうってつけだ。
さっきの縦穴といい、窓から出入りするらしい建物といい、やはりここの住民は空を飛べたのだろう。
手近なテラスに降り立って、大きな開口部を調べてみる。
「ガラスとか、ないんだねぇ」
高さは、エルヴィラが立ったままで全く問題ない程度。幅は両手を広げたくらい。
ただ地球なら付き物の、ガラスや何かをはめ込む溝は、どこにも見当たらなかった。
「これだけの都市を築く方々ですよ?
窓のような原始的なもの、使ったとは思えませんが」
そんなことも分からないのかと、これ見よがしに姪っ子が言う。本当にひねくれ者だ。