Episode:44
「……ちょっと待ってよこれ、降りられないじゃない」
入り口へ着いての、エルヴィラの第一声はそれだった。
「降りられますよ。まぁ確かに、このままじゃ危険ですけれど」
イノーラが、身も蓋も無いことを言う。
二人が足を向けた入り口は、利用は可能だった。ここからなら、容易に中へ入れるだろう。
――無事なら、だが。
どういうふうに使っていたのか、出入り口とおぼしき場所はただの縦穴だ。足をかけるところも、手で掴むところも見当たらない。
降りようと思ったら、飛び降りるしかなかった。
「昇降台とか、ないのかな?」
「見当たりませんね。この穴だけです」
つまり……この穴はこの状態で、使われていたということだ。
「ここに住んでた人たち、飛べたのかな?」
「可能性はありますね。この都市構造の説明もつきますし」
仕方なく、装備を整え直して出直すことにする。
たしかに人間だって、ちょっとした段差や階段は気にしない。
歩ける人がほとんどだから、良いか悪いかは別としてそれで成り立ってしまう。
この縦穴も、理屈は同じなのだろうが……自分が出来ない側に回ると、けっこう悔しかった。
「飛べない人のことくらい、考えてくれたっていいのに」
ぶつぶつ言いながら、エルヴィラは再度縦穴へと向かう。
「降りるよ」
「どうぞ」
出鼻を挫かれてしまったせいか、もう怖さは感じない。むしろ「見てやろう」という闘志が湧いてくる。
持ってきた斥力場ベルトを稼動させてから、エルヴィラは縦穴へと飛び込んだ。相次いでイノーラも身を投じ、二人で落ちていく。
ただ、スピードはかなりゆっくりだ。展開された斥力場が、勢いが付きすぎるのを防いでいる。
数メートルほど落ちたあと、二人は猫のように軽く着地した。振り仰ぐと、丸い穴から青空が見える。
周囲は屋上と同じ、クリーム色の材質だ。それがゆるい弧を描きながら、ぐるりと取り囲んでいる。
そして、目の前には。
「うっわ……」
出た先は、まるで展望台だった。それとも、出入り自由なぶら下がった鳥かご、と言ったほうがいいだろうか?
辺りは思ったより明るかった。
地球にいた頃、ガラスの天蓋に覆われたビルの吹き抜けを見たことがあるが、そんな感じだ。
「なんでこんなに明るいんだろ?」
「この素材、吸収した太陽光を内側に放つようになってますわ。だから、全体が明るいのかと」
「へぇ……」
理系が苦手なエルヴィラには、何がどうなっているか見当もつかない。
落ちないようにしながら身を乗り出すと、白っぽい八角形の柱が氷柱のように、びっしりと重なり合いながら、遥か下へと伸びていた。
ここでどんな姿をした人たちが暮らしていたのか。
なぜ打ち捨てられたのか。
廃墟となった町を見ながら想像を巡らすうち、さっきまでの闘志はどこへやら、また背筋を怖さが這い登ってきた。
静まり返ってぶら下がる建物群は、まさに「墓標」だ。
そんなエルヴィラヘいつもと変わりなく、姪っ子が声をかける。