Episode:43
「着陸完了。大気は、呼吸はムリですね」
「しょうがないよ、地球じゃないし」
自分たちに合わせて惑星改造しない限り、他惑星では呼吸出来ない。銀河の常識だ。
「なんか大型の生物とか、居なかったよね?」
「スキャン可能な範囲には居ませんわ」
姪っ子の言葉に少し安心しながら、それでも用心のために武器を持った。
――とっさに使えるかどうか、いまひとつ自信がないが。
自分たちの専門は商売で、惑星探査ではない。だから今まで武器を使うどころか、持つ必要さえなかったのだ。
まぁ武器自体は、ほぼ自動で動いてくれるから大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせながら、エアロックへ向かう。
小さな部屋の中が一旦真空になり、次いで船外の空気が入ってきた。
さすがに緊張しながら、外へ一歩踏み出す。
「うわ……」
思わず声が出たのは、空が思いのほか青かったからだ。まるで地球のように青い。
「何を騒いでらっしゃいますの?」
「だって、空、青いんだもん」
違う星なのだから、違う色ということだって十分あり得る。だからこの色は、予想外だった。
だがイノーラのほうからは呆れたようなため息が、通信回線越しに聞こえてくる。
「船の中からも、見えていたはずですけれど? とうとう視力まで衰えまして?」
「――見てなかった」
言われてみればその通りなのだが、緊張していたのだろう。地表ばかり見ていて、ちっともそんなところに目が行かなかった。
次いで、視線を下へやる。
材質が何か分からないが、クリーム色の平らな床――正確には屋上なのだろうが――が、ずっと向こうまで続いていた。
宇宙船の大きさと比較して、おそらく十キロ単位だろう。
こんなものを持ち上げて土台とし、そこからビルを下向きに建ててるのだから、ある意味見上げた根性だ。
周囲をスキャンしてみると、何ヶ所か都市への入り口らしきものが見つかった。
「……行ってみよっか」
心なしかいつもの勢いがないのは、ちょっと怖いからだ。
「では、いちばん手近なところへ」
イノーラが平然としているのは、いろいろな感情がイマイチ抜けているせいだろう。
この姪っ子、喜怒哀楽がないわけではないが、どちらかといえばコンピューターに近いフシがある。
ともかく不安半分期待半分で、エルヴィラは一歩を踏み出した。




