Episode:42
大地が、手で触れられそうな距離になってくる。
「ドーム都市が幾つか見受けられますね」
「ドームとちょっと違うと思う……」
イノーラが映してくれた解析映像を見ながら、思わずエルヴィラはつぶやいた。
姪っ子は銀河育ちだから違和感がないのかもしれないが、半分地球人のエルヴィラからしたら、とても「ドーム都市」という感じではない。
そういうタイプのものは地上にあって、透明な天蓋で覆われているものだと思う。
けれど拡大された画像にあるのは、一言で言うなら「逆さまに釣り下がった都市」だ。
白っぽい八角形のプレートを、隅と中心の柱の計九本で空高く持ち上げ、そこからやはり白っぽい八角形の建物群が下へと伸びている。
加えてそれが、下向きの透明な八角錐で覆われていた。
「ふつうに、地上に作ればいいのに……」
木からぶら下がった、ガラス箱入りの蜂の巣。そんな感じの都市を眺めながら、エルヴィラは呟いた。
聞きつけた姪っ子が、すかさず言い返す。
「別に、地球と同じ形にする必要はありませんし」
「そりゃそうだけど、地上に建てるほうが多くない?」
他愛ない会話を続けているうちにカップのお茶は冷め、地面が近づいてきた。
「植民星のようですわね。生命が自然発生した星としては、種類が少なすぎますから」
「そうだね」
これを自然発生のネメイエス人が創造主として崇めているのだから、ちょっと皮肉な話だ。
――それでも構わないのかもしれないが。
この星を崇める彼らにとっては、〝ここに文明があった〟ということ自体が重要で、どういう経緯かは関係ないのだろう。
第一ネメイエス人だって、一度はここへ来ているのだ。植民星だったことくらい、分からないわけはない。
(信じたいものを信じる、か)
どこで聞いたのか忘れたが、そんなことを思い出す。
まだ地球に居た頃だったろうか? 言った人によれば、人は動かせない事実よりも、信じたい嘘を信じてしまうらしい。
ただ、それが信じられない力を生み出すこともある。それに事実は小説より奇なりで、事実のほうが信じがたい場合もある。
何を信じて何を選べばいいのか、難しいところだ。
「どこ降りる? あの都市の上とか、便利そうだけど」
「そうですね。発着港として使われていた痕跡もありますし、強度が十分でしたら、そこで」
着陸場所が決まったところで、すっかり冷めたお茶をすする。
せっかく淹れたのにもったいなかったと、エルヴィラは思った。今度から緊張が続くときに淹れるのはやめて、一段落してからにしよう。
「強度、出ました。降りても問題なさそうです」
「おっけー、んじゃそこ降りてみよ」
船が進路を変え、ゆっくりと蜂の巣都市の屋上(?)へ再降下していく。
近づいてみると発着場として使われていたと言うとおり、屋上にはたくさんの船が停泊していた。
かつてはここから他の都市や宇宙へ、離発着が頻繁に行われていたのだろう。
イノーラが空いているスペースへ、船を降ろしていく。やがて軽い衝撃と共に、景色の動きが止まった。