Episode:41
お茶だけ買いに行くのもどうかと思うが、成り行きでこんな近く――銀河スケールでだが――まで来てしまったのだから、寄り道くらいいいだろう。
ちょっとうきうきしながら戻り、操縦室の前でドアが開くのを待ち……次の瞬間、エルヴィラは動けなくなった。
先ほど操縦室に居たときも見ていたはずなのに、なぜ気付かなかったのだろう?
それとも地表からまだ遠すぎて、見えなかったのだろうか?
遥かに広がる翡翠色の海。
黒っぽい大地。
その上にそびえる幾つもの山脈。
くねって流れる川らしきもの……。
色こそ違うがそれは、かつて見た地球の様子に良く似ていた。
だからこそ、動けなくなったのだ。
また見たいと思っていた。けれど今まで叶うことはなかった、大気のある地球型惑星の地表。
それが今、目の前にあった。
カップをひとつ姪っ子に渡して、自分の席に座る。
「おばさま?」
いつもと様子が違うことに気付いたのだろう、姪っ子が不思議そうに訊いてくる。
「ついに頭でもおかしくなりまして?」
「あんたねぇ……」
何もここでそんなことを言わなくてもいいだろう、そう思ったが、エルヴィラは言わなかった。
代わりに、彼女が黙るようなことを言う。
「地球に、ちょっと似てるんだよね」
「そうなんですか?」
案の定、イノーラが黙った。
これでしばらくは静かだ。
少しずつ冷めていくお茶をすすりながら、ゆっくり近づいてくる地表の様子を楽しむ。
そのうちふと、エルヴィラは思いついて訊いてみた。
「なんか生き物とか、居そう?」
大騒ぎばかりで、そういう基礎データも見ていない。
「おばさま、とうとう思考力もなくなりまして?」
返ってきたのは、またもや姪っ子の毒舌だった。
「文明の痕跡がありますのよ?
何も居ないわけが、ないじゃありませんか」
「あー、それもそうか」
何の理由でこの文明が滅びたかは知らないが、かつては知的生命体まで居たのだ。
それが自然発生なら他の生物もたくさんいるはずだろうし、植民でも、微生物や故郷の動植物を持ち込んでいるはずだ。
「何で無人になっちゃったのかな」
「さぁ? 星を捨てたほうが早い事態でも起こったのでは?」
たしかに植民星なら、それはあり得る。
発生星系で、ここが故郷のネメイエス人でさえ、今回の超新星爆発では星を捨てようというのだ。
植民しただけなら何か起こった場合、受け入れ先が見つかり次第、いや見つからなくても、とりあえず船に乗って脱出したほうが楽だろう。
それにしてもこの星系、つくづく不運だ。
せっかく文明を築きながらもこの星は滅び、その後栄えたネメイエスもまた、ここを去ろうとしているのだから。




