Episode:40
エルヴィラたちの船は、この星系へ最初に来た位置へ戻ってきていた。
なんだかおかしな感じだ。少し前、宇宙蝶に連れられてここへ来たときは、あんな大仕事に関わるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
地球とネメイエスとは、上手く行っているらしい。速攻で交わした契約が、思惑通り妨害をブロックしているようだ。
上手く行き過ぎて、ソドム人の報復が怖いところだ。
目の前の惑星は当たり前だが、最初に来た時とほとんど変わっていない。違うのは宇宙での位置くらいだろう。
「さぁて、上手に降りないとね」
言ってみたものの、実際にはそんなに難しい作業ではなさそうだ。宇宙蝶に大気圏へ放り込まれそうになったときは確かに焦ったが、自分から降りるならどうにかなる。
何より、船の調子がすこぶる良い。理由は単純で、きちんと整備したからだ。
移住先が決まったのが、ネメイエスにはよほど嬉しかったのだろう。エネルギー切れでエルヴィラたちが停泊しているのを知るや否や、補給を申し出てくれた。
しかもついでに、だいぶガタがきていた船を無償で直してくれたのだ。
とはいえ元がボロだから、完璧にとはいかない。そもそもこれを完璧に直そうと思ったら、買いなおしたほうが早いくらいだ。
だがそれでも廃船同然から、中古買いたてくらいにはなっていて、エルヴィラとしては文句が無かった。
地上へ向かって、船の高度を落としていく。目的は、この星で一番大きい遺跡だ。
「斥力場は?」
「異常ありませんわ」
この斥力場のおかげで、大気圏突入は銀河系の船にとって、地球で考えるほど難作業ではない。ただそれでも「通常の航行」とはワケが違うので気は抜けなかった。
「現在高度八十キロメートル。降下にはあと四十分ほどかかります」
「了解」
イノーラに返事をしながら計器にざっと目をやったが、やはり問題はなさそうだ。自動制御がよく働いている。
「すごいなぁ、徹底的に直してくれてるかも」
「ええ」
姪っ子が嬉しそうなのは、自分の半身になりつつある船が、調子がいいからだろう。
何しろイノーラは、人間より機械のほうが相性がいい。人相手だと怒らせるしか出来ないのに、機械は魔法のように操る。
「お茶でも淹れる?」
「どうぞ。おばさまが席にいらっしゃらなくても、問題はありませんから」
やっぱりこの姪っ子、ひねくれている。そう思いながらエルヴィラは操縦室を出て、居住スペースへと向かった。
戸棚を開け、とっておきのパックを取り出す。もう幾らも残っていない、地球産のお茶の葉だ。
銀河系の技術は、エネルギーを物質に変換して食料を生み出すところまで来ている。当然成分や何かもすべて同じだ。
ただ不思議なもので、誰もが何故か「自然に育ったもの」のほうが美味しいと感じる。
だからこのお茶をはじめ、天然物は引っ張りだこで高級品扱いだった。
せっかく地球の近くまで来ていることだし、この調査が終わったら買いに行こうか、などと思いながら、お湯を沸かしじっくり蒸らし、と時間をかけて淹れていく。
銀河では高級品でも、現地まで行けばありきたりのものだ。