Episode:37
「だからさ、地球はソドム人に首根っこ、押さえられてるよね」
「そうですわね」
この点に関しては、地球人なら誰も異論はない。
「でさ、交渉のときも言ったけど、アイツらが地球が独り立ちするようなこと、許すと思う?」
「許さないでしょうね……」
銀河市民ならきっと、誰だって同意する。ソドム人が在る限り、これだけは確実と言っていいくらいだ。
「だから急ぐわけ。
そうすれば、あたしや地球があいつらの相手、しなくて済むもん」
組織で挑んでくる相手、それも百戦錬磨のソドム人相手に自分が力不足なのは、エルヴィラ自身もよく分かっている。
そしてそれは、地球も同じだ。
だったらここはさっさと契約して、残りはお人好しでありながらもこの銀河できちんと生き残ってきた、ネメイエスのプロにやってもらったほうがいいだろう。
ヘタに虚栄心を出しても、せっかくの儲けがフイになるだけだ。
「ともかく、早く契約だけでも結んじゃわないと。そうすれば、手出し出来なくなるから」
この銀河では、契約は絶対だ。横槍を入れたりしたら、法外な制裁を食らう。
だからどこも、「契約」することにとてもこだわるのだ。
イノーラはもう、何も言わなかった。これ以上やり込められるのが、イヤなのかもしれない。
(そんなこと気にしないで、覚えればいいのになぁ……)
なにしろ頭の回る姪っ子だ。これで商売のコツを覚えたら、向かうところ敵なしだ。
ただそうなると、エルヴィラ自身の立つ瀬がなくなるのが、悩ましいところなのだが。
そんなことを考えながら、エルヴィラはネメイエスとの交信を待つ間に、地球のほうに伝文を送った。
内容は簡単で、「この取引に関して、自分たちに契約の締結代行権を与えて欲しい」だ。そしてその理由と回答期限も付け加える。
地球側も理由を見て、すぐピンと来たのだろう。すぐに「了解」の回答と、任命書とが送られてきた。思惑通りだ。
これから起こることを想像して、ついニヤニヤしそうになるが、頑張ってこらえる。また姪っ子に突っ込まれては面倒だ。
「……ネメイエスから交信要請です。どうなさいます?」
しばらくたった頃、イノーラが無機質な声で告げた。まださっきのことを、根に持っているのかもしれない。
「どうするって、そりゃ交信でしょ」
言ってスイッチを入れると、いつもどおりの合成画像が現れた。
「わざわざ時間を取っていただいてすみません」
エルヴィラの言葉に、ネメイエス側がにこやかに答える。
「とんでもない。こちらこそこんなに早く交渉をまとめていただいて、お礼の言葉もありません」
まぁ実際そうだろうな……などと心の中で思ったが、エルヴィラは笑顔を崩さなかった。
相手も分かってはいるだろうが、互いに見せず指摘せずというのが、交渉というものだ。
「喜んでいただけて何よりです。ところで、お送りした要望は見ていただけましたか?」
「ええ、ざっとは。ただ細かいところは、これからになります」
地球から回答が来てから送ったのだ。既に内容に目を通しているだけでもすごい。
だが今やらなければならないのは、別の話だ。