Episode:34
この辺がやはり地球人だな、とエルヴィラは思う。
銀河文明に直に接していないから仕方ないのかもしれないが、文明力の差を甘く見すぎだ。
しかも地球は、次代を担う優秀な子が次々と流出していて、発展どころか衰退の一途なのだ。
「私は、悪くないと思うんです。だってほら、あのソドム人ですよ?」
地球人なら、必ず反応する言葉を投げる。
案の定、相手も反応した。
「彼らが何か? 今回の相手は、ネメイエスという星では?」
訝しがるところを捕らえて、すかさず言う。
「ソドム人が地球に居座ってるのは、地球人が売れるからですよね?」
「ええ、それはもちろん」
相手が苦々しげに言う。地球人なら誰もがそうだろう。
だが今は、交渉をまとめるのが先だ。取り合っているヒマはない。
「ソドム人は地球人なら誰でも知るとおり、とんでもない守銭奴です。
その彼らが、地球が発展して独り立ちするようなことを、許すと思いますか?」
相手がはっとした表情になった。
たぶん地球人は、気づかなかったのだろう。ソドム人が未来永劫可能な限り、地球から奪い続けるつもりなことに。
宇宙へ出て交渉の場につけば、すぐに分かる。彼らがどれほどがめつく悪辣か。
何しろ些細な手違いから、最後は星を丸ごとソドム人の支配下にされた例は、そんなに珍しくないのだ。
けれど地球は、今まで奴隷だ人種差別だといろいろありながらも、少しずつ前へ進んできた。
だから遠い未来にはいつか、何とか出来ると思っていたのだろう。
「木星をネメイエスに貸し出すなら、これからの異星人との交渉はすべて、彼らに任せられます。
さらに教育と技術が手に入るのなら、むしろお釣りがくるかと」
「そうですね……」
地球側が思案顔になる。この取引のメリットを、認識し始めたのだろう。
あと一押しと感じたエルヴィラは、最後のカードを切った。
「それから先ほど『オマケで地球の防御』と言ったのですが、意味はお分かりになりますか?」
説明していないのだから、分かるわけがない。だが動揺を誘うために、あえてこういう言い方をする。
「意味、ですか? 文字通り、地球の異星人からの防衛ではないのですか?」
「いいえ」
エルヴィラに即座に否定されて、相手が困惑した。
「ではいったい、何を……」
「ベテルギウスという星が、超新星爆発を起こしました」
そこで一回間をおく。考える時間を持ってもらうためだ。
「たしか、オリオン座の星でしたね。いつ超新星爆発しても、おかしくないと言われていた。
ですが被害はほとんどないと、研究機関がみな発表していたかと」
「ええ。ただそれは、ガンマ線バーストが地球を直撃しない場合、です」
しばらくの沈黙の後、相手がかすれた声で答えた。