Episode:30
「地球側には、相場の範囲内で教育や交渉の肩代わりを要求できると伝えます」
「分かりました」
ネメイエス側も同意する。
そこでエルヴィラは、確認するフリをしてカードをひとつ切った。
「では交渉はその方向で……それと六百四十年後のガンマ線バーストの防御は、別枠と考えていいのですよね?」
移住する場合、ネメイエスにとってもこの防御は必須だ。だからその範囲に地球を含めるくらい、大した手間ではない。
ならばガンマ線バーストへの防御は、タダで引き出そうと思ったのだ。
相手の負担にならない範囲で、確実に利益を積み重ねる。商売のイロハだ。
「さすがに個人で商売をされてきただけありますね。しっかりしていらっしゃる」
向こうが苦笑――分かりづらいが、たぶんそうだろう――しながら続けた。
「私たち自身のためにも、防御はしなければなりません。そこに地球を含めるのは、もちろん構いませんよ」
内心やったと思ったが、声には出さない。だがこれで、地球の壊滅は回避できるだろう。
さらにしれっと、エルヴィラは言った。
「ご好意、感謝します。この内容で地球側に交渉します。それで、お願いがあるのですが……」
「何でしょう?」
向こうが緊張を見せる。思う壺だ。
エルヴィラは「やった」と想う気持ちを押し殺し、平静を装って言った。
「以前も言いましたが、私たちに特使の肩書きをいただけますか? さすがにこれがないと、いくら地球出身でも取り合ってもらえませんから」
何か吹っかけられるかと警戒していたところへ当たり前すぎる要求を出されて、こんどこそ向こうが笑い出す。
「もちろんですよ。もう準備は出来ていますから、すぐにでも可能です」
過信は禁物だが、なんとなく信頼関係が出来た気がする。これなら上手くやっていけそうだ。
内心にこにこしているエルヴィラに、ネメイエス人が訊いてきた。
「ところで、そちらは報酬はよろしいのですか?」
「え?」
予想外の言葉に、思わずおかしな声が出る。
「報酬って……でもまだ、成功してませんし」
お人よしと言われそうだが、エルヴィラは仲介料をもらうつもりはなかった。
例え結果がどうなるにせよ、尽力したという事実は残る。
そしてそれがあれば、ネメイエスとは良好な関係が保てるから、商売もやり易い。それを仲介の報酬とするつもりだったのだ。
だがネメイエス側は首を振った。
「それは我々の間では、許されざることです。
悪意も善意も相応に返す、これがネメイエスの文化です。
ですから何も返さず善意のみ受けたとあっては、政府の立場が危うくなってしまいます」
「なるほど……」
これから大変なときなのに政府が国民の信頼を得ていなかったら、とんでもないことになる。
「地球の文化は違うのかもしれませんが、我々を助けると思って、何か要求してください」
何にしよう、そう考えたとき、とあることが思いついた。