Episode:28
「その件ですが、とりあえず打診だけでも、地球側にしていただけないでしょうか?
私どもより同種の方のほうが、話を持っていくには適していると思いますので」
読み通りだ。それに対して、にこやかに答える。
「前に言ったとおり、交渉は私たちが受け持ちます。地球はいろいろ、難しいですし」
「ええ。その辺は我々には、なんとも分かりませんので」
当然だろう。
銀河系中を探したって、未開の惑星なのに銀河文明と接点があって、尚且つ子供が売りに出される星など、地球くらいだ。
こんなややこしい背景を持つ相手と上手くやるのは、並大抵のことではない。同郷の商人が間に立つというなら、任せるのが賢明だ。
そんなことを思いながら、エルヴィラは持ちかけた。
「ではとりあえず、仲介に関しての契約を詰めさせていただけますか? その辺がはっきりしないと、私たちも引き受けるのに少々怖いので」
契約がすべての銀河では、裏を返すと「契約していないこと」は何でもアリにされる。
交渉失敗の際の取り決めをしておかなかったために、後からとんでもない額の賠償金を請求されたなどという話は、それこそ掃いて捨てるほど聞いた。
だからこういう些細なことでも、きちんと取り決めを交わしてから取り掛かるのだ。
正直面倒だとは思うが、何もかも違う異星人同士では、これが一番確実なやり方なのだろう。
相手もその辺は分かっているから、否やはない。
「もちろんです。決めるのは期日、成否とその報酬、権限、この辺りでよろしいですか?」
「ええ」
気を引き締める。
地球のためにも、まず最初のここで、つまづくわけにはいかなかった。
「まず、この交渉についてですが」
ネメイエスの外交部が切り出す。
「太陽系第五惑星木星に、我々ネメイエス人が一定期間以上住めるように、というのが最低条件です。この点についてはよろしいですか?」
「はい」
素直に同意する。こちらが想像していたのと、ほぼ変わらない。
「次に『一定期間』というものですが……」
「七百五十年ではどうです?」
すかさず、こちらから提案する。
「そのあたりを目処に、万一もとの星系へ戻れなかったり、次の移住先が見つからない場合は、改めて契約のし直しということで」
もちろんこの年数には、下心があった。
仮にネメイエスが元の星に戻るとして、それは早くても七百年近く先だ。
最初のガンマ線照射は七年後だが、その後の衝撃波の到達には、おそらく六百年以上かかる。
その様子を見て、場合によっては星の環境を整えて戻るとして、これより早くは難しいだろう。
だからそこにおよそ百年上乗せしておけば、向こうも嫌とは言わないはずだ。
そしてこれなら、太陽系をガンマ線バーストから守ることも、自動的にやるハメになる。
ただネメイエスは、さすがに交渉上手だった。