Episode:27
「ここで仲介役もやって、少しでも小銭稼がなくちゃねー」
姪っ子は答えない。主導権が取れないのが悔しいのだろう。
毒舌でワガママで、そのくせ頭の回転だけは速い。こんな姪っ子を、そのうち誰か〝もらって〟くれるだろうか……などと、つい叔母らしいことを考えてしまう。
――考えるだけ無駄な気はするが。
なにしろ一度は宇宙へ売られた身だ。割と大きくなってからだった自分はまだともかく、〝宇宙的〟とでも言うべき環境で育った姪っ子は、考え方や発想が根本的に地球人とは違う。
子供の頃、出身国が違うために合わずに大騒ぎになり、最後は離婚した友達の親が居た。だとしたらもっとかけ離れてしまった姪っ子は、地球人と上手くやれる可能性は限りなく低い。
ただそれでも、一度地球へ返してやりたい、とは思う。
飼い主に頼んで手に入れてもらった地球の記録映像を、イノーラはそれこそ画像がダメになるまで、繰り返し見ていた。
彼女は四歳のときに地球を離れて、それっきりだ。だから、あの風も雨も日差しもよく覚えていないのだろう。
エルヴィラの記憶では、イノーラがそこまで憧れるほど、地球は素晴らしいところではない。だが姪っ子にとっては、遥かな楽園なのだ。
(幻滅しなきゃいいんだけどなぁ……)
いつか地球に降り立った日のことを心配しながら、ベッドから起き上がる。
「おばさま、どこへ……」
「操縦席。ネメイエスと話するなら、そこがいちばんいいし。
多分そろそろ、来る頃だから」
どうせ相手にこちらの服装は伝わらないからと、ラフな格好のまま向かった。
席に座って、宇宙蝶の録画映像をぼんやりと見ながら待つ。
ネメイエスには時間がない。どれだけの人口を抱えているかは知らないが、それが全員退去して移住となれば、七年という時間は短すぎるだろう。
いくら木星が似ていても、ある程度は惑星改造しなければ住めないし、ドーム都市のようなものをとりあえず建設するにも、今すぐ始めてギリギリ間に合う程度だ。
さらに一日遅れるたびに、事態は悪化していく。そうなればネメイエス人の助かる率はどんどん下がる。これは極力避けるだろう。
だとすれば自分たちが出したこの木星の話に乗るはず、それがエルヴィラの見立てで、さらにそれはかなり早いと判断していた。
根拠は単純で、この話がダメだった場合、ネメイエスは次の惑星を探さなくてはならないからだ。
そしてその考えは、的中した。
「星系外交部から……通信が入りました」
寂しがりだからだろう、エルヴィラについてきて副操縦席に座っていた姪っ子が、少し驚いたように告げた。
「来た来た、繋いで」
「はい」
イノーラが操作すると、前回と同じように合成映像が映る。相変わらず破格の扱いだ。
「回答、遅くなりまして申し訳ありません」
「いえ、当然だと思いますよ。星系の命運を決めるような、一大事ですから」
商売ではお決まりの、相手を思いやるようなやり取りをしながら、本題に入る。
「それで、お話は例の木星の件だとは思うのですが。何か進展がありましたか?」
聞くまでもないことだが、それをあえて言って水を向けるのも交渉のうちだ。
相手もうなずいて乗ってくる。