Episode:26
「ねぇイノーラ、地球って今、どうなってる?」
「どうって……どういう意味ですの?」
予想外の質問に、才女の姪っ子もいささか思考停止したようだ。
その隙を突いて言葉を重ねる。
「だからさ、地球は今、子供をペットにして売ってやっと生きてるよね」
「ええ……」
エルヴィラにしてみれば、とんでもないエゴだと思う。
今居る大人たちを生かすために、何故自分たちが売られなくてはならないのか。当の大人たち自身を売るべきではないのか。せめて、拒むべきではないのか。
だが本能は、すべての理性を踏みにじる。それで明日の食料が手に入るなら、人はたちまち鬼にも悪魔にもなる。
もちろん我が子に白羽の矢が立った親たちだって、ぼうっとしてはいない。逃げたり隠れたりと、だいたいは必死に子供を守ろうとする。
だが飢えた人々は容赦がなく、全員が監視者となって探し回るのだ。
親子が逃げていると親類も白い目に晒され時には解雇されるうえ、子供が売れれば遠縁まで食料をいくらか優遇されるのもあって、なかなか味方にはならない。
それどころか他の兄弟を人質にしたり、勝手に養子縁組をして親権を奪ったり、果てにはリストに挙がった子の親兄弟を殺そうとまでする。
加えて宇宙へ出れば、子供たちが飢えることはない。
この辺の保護は銀河系ではきちんとしていて、地球のペットなど足元にも及ばない扱いだ。
上手くいけばエルヴィラたちのように、銀河系の教育を受けられることさえある。
そんな幾つもの理由で、親たちは泣く泣く子供を手放すのだった。
ふざけている。腹が立つ。許すつもりなどない。
だが、ここで息巻いていても状況は変わらない。
むしろこのままでは余計悪くなって、自分たちのように売られる子供が増えるだけだろう。
――だから。
まっすぐにイノーラを見ながら、言う。
「あたしこれ以上、子供は売らせたくないんだ」
姪っ子は何か言いかけたが、けっきょく言葉にならなかった。
「ネメイアスの外交部からOKの返事が来たら、特使の肩書きもらわなきゃね」
「特使、ですの?」
どうも交渉ごとに疎いイノーラは、ピンとこないようだ。
「だってあたしたち、ただの貧乏人だよ? いくら地球出身だからって、地球政府にただ話しても、取り合ってもらえるわけないでしょ」
話をするならまず、相手と同種を探し出して、仲介をしてもらう。これは銀河系の一般的なやり方だった。
考えてみれば地球だって、まずは人の縁を頼る。ならば見掛けも考え方も違う異星人同士より、同種のほうが話が早いのは当たり前だ。
そして銀河市民権を持つ地球人は、ほとんどゼロと言っていい。
だからエルヴィラたちにその役が回ってくるのは、ほぼ確定と言ってよかった。
とはいえ一介の商人では、地球の上層部に取り次いでもらうことさえおぼつかない。最初の段階でヨタ話扱いされて、門前払いが関の山だ。
だからネメイエス側から、肩書きをもらう必要があった。
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