Episode:25
「問題というか……地球はあの守銭奴に魅入られたせいで、発展することも出来ず貧困の極みにあります。それこそ、身内を売らなくてはいけないくらい。
それに対して、対価という形で援助をいただけませんか?」
「なるほど。ですが援助と言っても、たとえばどのような?」
ここであの食糧生産機械の稼動エネルギーを条件に出せば、勝手に決めても地球側は怒らないだろう。
だがエルヴィラは、それを言うつもりはなかった。
数十億人を養うエネルギーは莫大だし、何よりそれでは解決にならない。
それにネメイエス側も、いくら間借りするとはいえタダで養わなくてはいけないというのは、条件として飲みづらいはずだ。
だから、言う。
「たとえば、交流と、教育と、交渉の肩代わりなどを、六百年後の防御と共に」
相手がうなずいた。
「もっともですね。分かりました、そのような条件で上にかけてみます」
「よろしくお願いします」
言いながら思う。
夢へ一歩、近づいたかもしれない、と。
回答は、一日経っても返ってこなかった。
もっとも、ネメイエス星人の命運を決めるような決断だ。そう簡単には決められないだろう。
自室のベッドに寝そべりながら、エルヴィラはそんなことを思う。
イノーラとは木星の件について、まだちゃんと話し合っていなかった。
文句が来るのが見え見えだし、駆け引きに疎い姪っ子を諭すのも面倒くさい。だから姪っ子から逃げ回っている。
(けどそろそろ、限界かな……)
例の星間生物の映像の売却先を確かめるだの、地球の現状を調べておきたいだの、いろいろ忙しいフリをしてはいたが、そろそろネタが尽きてきた。
何より、狭い宇宙船の中なのだ。逃げ切るには物理的に無理があった。
「入りますわよ」
案の定、姪っ子が強引に扉を開けて入ってくる。電子ロックはしてあるのだが、船の機能をすべて掌握している彼女にかかっては、ベニヤ板も同然だ。
「おばさま、正気ですの?」
入ってくるなり、姪っ子が食って掛かってきた。
「正気って何が?」
分かっているが、言ってみる。
「そりゃ、木星のことですわ!」
珍しくいきり立つ姪っ子の目を真っ直ぐ見ながら、エルヴィラは答えた。
「正気だよ」
さらに続ける。
「売れるものは何でも売る、商売の鉄則でしょ」
「でも、地球に断りもなく!」
姪っ子の言い分は、分からなくもない。
何しろ惑星ひとつだ。売り買いするには大きすぎるだろう。
だがエルヴィラは、間違っているとは思わなかった。