Episode:24
(たしか、真円に近い軌道の惑星が見つからない、だったっけ?)
目の前の交渉相手は、そんなことを言っていたはずだ。
必死に考える。
ネメイエス星人が住んでいるのは、ガスジャイアントと呼ばれる木星型惑星だ。そして太陽系にも、同じような星が幾つもある。
――それも、円に近い軌道を描いていて、恒星から適度に離れた。
「イノーラ、ごめん、ちょっと計算して。ネメイエス星と太陽系の惑星、どのくらい似てる?」
「え? えぇ、ちょっとお待ちを」
故郷の危機に動転しているのか、姪っ子が素直に従った。
「……ざっとですが、結果が出ました。ネメイエス星はかなり、木星に近いですわ」
思ったとおり、交渉の材料くらいには使えそうだ。上手くいけば、太陽系を救うことも出来るかもしれない。
「えぇとすみません、データ見させて頂きました。それで、ちょっとお聞きしたいんですが」
交渉相手に話しかける。
「たとえば数百光年離れていたら、ガンマ線バーストは防げますか?」
「そうですね……それだけ離れていれば、その分時間がありますから、可能でしょうね」
予想通りの答えが返ってきた。
「数百年かけて準備が出来ますし、技術革新も望めます。現時点でもある程度は防げますから、大丈夫だと思いますよ」
「それなら、候補地があります」
エルヴィラは勝負に出た。
「私たちの出身地は、地球です。ご存知ですか?」
「あぁ、あの高知能ペットで有名な――」
途中で言葉が途切れたのは、目の前の話し相手がその「高知能ペット」だと気づいたからだろう。
「ええ、その星です」
ややこしいことにはあまり触れず、エルヴィラは話を進める。
「で、その地球のある星系なんですが、ネメイエス星と似た惑星があるんですよ」
「本当ですか?!」
相手が興味を示した。切羽詰っているだけのことはある。
「本当です。データをお送りしますから、ご覧になって検討していただけますか?
私の見立てでは、なんとか住める範囲だと思うのですが」
言いながら、相手にデータを送る。
銀河文明の技術なら、惑星改造はそんなに難しいことではない。基本的な条件さえ合っていれば、あとはどうにか出来るものだ。
検討しているのだろう、しばらくの沈黙があったあと、向こうが口を開いた。
「たしかにこれなら、何とかなる範囲ですね……。ただ、地球のほうが納得するかどうか。
それに私の一存では決められませんから、その辺の時間も頂かないと」
「ええ、どうぞゆっくりご検討ください。
それから地球側との交渉は、私が受け持ちます。ただ――」
もったいぶって、そこで一回言葉を切る。
「何か問題でも?」
不安になったのか、相手が尋ねてきた。そこを逃さず、エルヴィラは言葉を押し込む。