Episode:22
「規模から試算したところ、このままでは我々が死滅するのは間違いありません。この距離では、とても防げませんので……」
いくら銀河文明の科学力が優れていても、規模が規模だ。到底太刀打ちが出来ない。
「やっぱり、移住なさるんですか?」
相手にこちらの心配が伝わるよう、少し大げさに声を落として訊く。銀河文明の翻訳機はこの辺のニュアンスも伝えるので便利だ。
「不本意ですが、それ以外に手がありません」
相手からも、気落ちしたような声と合成映像が返ってきた。
「最初のガンマ線照射と、次の爆風では時差が出ますから、かなり長期間になりますし。
何より惑星の住環境が激変して、我々が住めなくなる可能性もかなりあります。
場合によっては表面のガス層が衝撃波で剥ぎ取られて、二度と戻れないかもしれません」
たしかにこれでは、頭が痛いだろう。だが商売の好機であることもたしかだ。
ネメイエス側の話は続いている。
「ただ、移住しようにもなかなか条件の合う星がありませんで……公転軌道が真円に近い星は稀なうえ、適当な距離にあるとは限りませんし」
「あー、たしかに」
たいていの星系で、惑星はかなり偏った楕円軌道を持つ。太陽系のように円軌道が並ぶ星系は、実は稀なのだ。
軌道が楕円だと、主恒星への最接近時と遠日点では環境が激変する。だから基本的に安定した環境を必要とする生命体とは、どうにも相性が悪い。
「最悪の場合、宇宙船での長期避難生活を想定していますが、人口すべてが乗れる船を用意するのは並大抵ではありません。
出来れば一時的にでもいいので、どこか惑星へ避難したいのです」
「ですよねぇ。
良かったら、探してみましょうか? もしかしたら今まで立ち寄った宙域のデータ内に、あるかもしれませんし」
このくらいの話は出してもいいだろう、そう感じて持ちかける。商売はギブアンドテイクだから、口を開けて利益を待っているだけでは上手くいかないものだ。
案の定、向こうは乗ってきた。
「是非! データは多ければ多いほど助かります。何かこちらから、出したほうがいいものはありますか?」
「あ、でしたら被害の予測と希望する惑星の環境、見せていただけませんか?」
これを見ておかないことには始まらないだろう。
「ええ、どうぞいくらでも」
言葉と共に、データが転送されてくる。
「詳細は見ていただければ分かると思いますが、主だった星系に移住先がないのが、困ったところでして」
「なるほど……」
銀河系内で力を持つ種族には既に当たった、ということだろう。
それで移住先が見つからないとなると、かなり難しくなる。
探せばどこかに適当な惑星はあるはずだが、広い銀河で未知のそれを探すのは、砂浜に落とした砂金を探すようなものだ。
と、隣でデータを見ていたイノーラが顔色を変えた。