Episode:20
こういう宇宙港での交渉をはじめ、売り買い等で異星人同士が直接相対することは、銀河系では稀だ。最後に品物を受け渡しするときくらいだろう。
何しろ、発生状況も生理機構も違うのだ。どこかの種にとって快適な環境が、他の種にとっては即死モノ、ということも珍しくない。
かといってすべての種に、それぞれ合う環境を用意するなど無理な話だ。
結局いちばん簡単で安全なのが、異星人が出入りする建物内部は宇宙空間と同じ状態にして、それぞれに宇宙服を着てもらうという方法だ。
ただこれではとても、船外へ出てくつろぐというわけにはいかない。このため他星系からの来訪者は、どうしても必要な時以外は船の中に居て、通信でやりとりをするのが普通だった。
「あんまり安いとこだと、手抜き修理されかねないしなぁ。かといって大手は高いし、立会い認めてくれないし」
イノーラからの答えはない。聞こえているはずだが知らんふりだ。
交渉だけはエルヴィラのほうが上なので、口を出して言い負かされるのがイヤなのだろう。
エルヴィラ自身も、別に答えは期待していなかった。何しろひねくれた姪っ子だ。黙っていてくれるなら、それに越したことはない。
だがいくつか選び出して連絡しようというところで、また通信が入った。
「どこから?」
「星系政府の外交部ですわね」
再び頭をひねる。そんな主要機関に話しかけられるほど、ご立派な自分たちではない。
「無視します?」
「出来るわけないでしょ。ともかく繋いで」
訝しがりながらも回線を開くと、合成音と合成映像とが現れた。
その映像に、思わずエルヴィラはつぶやく。
「そこまで合わせてくれなくても、構わないのに……」
生命体は多種多様だ。だから意思を伝える方法もまた、多岐にわたる。
地球人ならすぐ音や光を思いつくが、これさえ普遍的とは言い難い。なにしろ地球上でさえ、生物によって捉えられる波長が異なるのだ。
異星人ならなおさらで、予備知識なしにはコミュニケーションの取りようがない。
ただこのことは、銀河史のごくごく初期から死活問題だったため、今ではある程度のマニュアルが確立している。
それぞれの船や惑星は、自分たちが認識可能な交流手段の報告が義務付けられていて、それを元に交信が行われるのが常だった。
だがそれを考慮に入れても、相手に合わせた合成音声と映像は破格の待遇だ。こちらは文字で済むのに、それ以上のことをしてくれている。
「よっぽど、お人好しの種族なのかなぁ?」
あっさり許可してくれたことといい、その線が否定できなくなってくる。
「それならそれで、いいのでは?」
「そりゃそうなんだけど」
口ではそう言いつつ、エルヴィラはまだ信じきれずにいた。
あのソドム人ほどでないにしろ、隙を見せたら喰われる厳しい世界が、銀河文明の一面でもあるのだ。
旨い話には裏がある、タダより高いものはない。これを忘れて、生きていける世界ではない。