Episode:19
「カンと理論は別ですわ。そしておばさまは、そういう理論が分からない方だ、と言っているんです」
本当に可愛くない。
だが毒舌の応酬が延々と続く前に、また通信が入った。
「管理局から第六惑星軌道上の宇宙港へ行くように、指示が出ています。どうなさいまして?」
何が隠れているかは分からないが、指示を無視は出来なかった。そんなことをすれば今度こそ不審船と思われて、問答無用で撃沈されかねない。
「言われたとおり、そこに向かって」
一抹の不安を抱えながらも、エルヴィラは姪っ子にそう指示を出した。
反物質エンジンが点火され船が動き出し、目的地へ向かう。
行き先として指定された宇宙港は、妙にごった返していた。と言っても建物の中のことではなく、周辺に係留している船の数のことだ。
しかも不思議なことに、球形の船ばかりだった。
「珍しい形だなぁ」
「理にかなっていてよろしいのでは?」
姪っ子の言うことは、間違いではない。こういうシンプルな形というのは強度が高く、事故のときなどに強いのだ。
が、銀河系ではこういう船は、むしろ少数派だった。どの星の船もそれぞれいろいろな理由で、もう少し凝った形をしていることが多い。
船籍をざっと調べてみると、ここの星系の船ばかりだった。ここでは球形が一般的らしい。逆に言うとボールのような船が連なるこの宇宙港は、ネメイエス人の船「だけ」で埋め尽くされていることになる。
「どうなっちゃってるんだろ……」
こんなことは初めてだ。
宇宙港は、言わば星の玄関だ。地球でも港や空港がその国の入り口になるように、外からの船はすべてここを訪れる。
当然港は、多国籍の船であふれかえるのが常だ。逆に言うなら同じ形の船ばかりというのは、「余所者が殆ど居ない」ことを意味する。
ボロ船を手に入れてからあちこち行ったが、こういう宇宙港は見たことがなかった。
銀河連盟に加盟するような星なら、どこでもそれなりの交易がある。だから、かなりの辺境かつ閉鎖的な星でも、もう少し他星系の船が居るものだ。
しかも、球形の船たちは一隻一隻が大きい。最大のものだと、エルヴィラたちの宇宙船を百隻は並べたくらいの大きさがある。
もはや大規模移民用の小惑星と言ったほうがいいくらいで、どう考えても普段から宇宙港に停泊するようなタイプではない。
やはり腑に落ちない。最初に感じたとおり、裏に何かありそうだ。
「ドッキング完了、停船します」
イノーラの言葉と共に、全方位スクリーンに映し出される景色も止まった。
「さぁて、交渉交渉」
「ここのデータコアには、既に接続済みですわ」
それだけ言うと、姪っ子は黙り込んだ。自分が交渉事には全く向かないために、興味もないのだろう。
「サンキュサンキュ。えーっとまず、修理関係かな……」
データコアに検索をかけ、安そうな修理屋を絞り込んでいく。