Episode:18
当然だが発生星系内は植民も全面禁止で、現地に知的生命が生まれて取り引きが成立しない限り、他星系からは何も出来ない。それどころか星系全体が自動的に「領域」となるため、無許可では星系内に入ることさえ出来なかった。
そこへ不慮の事故とは言え飛び込んでしまったのだから、向こうの入領管理局は今ごろ大騒ぎだろう。
「まぁそろそろ、釈明しろって呼び出しが来るだろうけど」
来なかったらそれはそれで嫌だな、などと思いながら、立ち上がって部屋を出る。こういう公式の通信は、操縦室でのほうがいい。
そういえば姪っ子は何しに来たのだろう、そんな疑問も浮かんだが、エルヴィラはあえて追求しなかった。
後ろを黙ってついてくるイノーラは、案外寂しがりやだ。だからなんやかんやと理由をつけて、エルヴィラの傍に居ようとするのだ。
これもまともな育ち方をしなかった弊害だろうと思いながら、通信を待つ。
そうやって移動してから、地球時間で三十分ほどだろうか? ようやく通信が来た。
「管理局より返信。『珍しいケースだが状況は理解。入領を許可、歓迎する』とのことです」
「え?」
姪っ子の言葉に耳を疑う。
「あっさり……許可?」
「そう言いましたよ。それともおばさま、耳まで遠くなりまして?」
すかさず突っ込まれたが、エルヴィラは答えなかった。さすがにこれは想定外だ。
何しろ本来なら星系外でするはずの申請を、中へ飛び込んだ状況で行ったのだ。瑣末なことまで、根掘り葉掘り訊かれておかしくない。
なのに審査らしい審査も無く、これといったお咎めも無く許可が出るなど、異例中の異例だ。
「なんか、ヤバい星なのかな?」
「さぁ? 星系情報には〝温和であまり星系外へ出ない種族〟とありますけど、こんなものアテにはなりませんし」
イノーラは相変わらず毒を吐いているが、エルヴィラはあまりそうは思わなかった。
何しろこの星系情報を出しているのは銀河政府だ。確かにすべて鵜呑みには出来ないが、今までの経験上、大まかなところは合っている。またそうでなくては、今頃大騒ぎになっている。
――あるいは温和すぎて、こちらの理由を疑わないのか。
ただこの考え方も、少々無理があった。
何しろこの銀河には、あのソドム人のような輩がうようよしているのだ。頭に花の咲いたような能天気な種族では、とっくに星を追われてしまっているだろう。
だとすると残る可能性は……こちらの言い分を認めることで、向こうに何かメリットがあるケース。が、このオンボロ船だ。有力星系の巨大艦ならともかく、こんなものを丁重に扱ったところで、何の利益にもならない。
「うーん、わかんないなぁ」
どうにも腑に落ちず、頭をひねる。
「どうせ考えたところで、おばさまの理解力ではムリだと思いますけど」
「うるさいな。あんたが破綻させかかった交渉、いくつまとめたと思ってんのよ」
たまにはと言い返してみたが、更なる毒舌が返ってきただけだった。