Episode:17
そして数年後、老衰で死んだ飼い主は、遺産の相続相手にエルヴィラたちを指名していた。
高知能ペットである地球人を、二人も買うくらいだ。飼い主はけして貧乏ではなく、エルヴィラたちに残されたのは、暮らしていくには十分な額だった。
ただし、あくまでもペットとして、だ。
一生ペットとして安穏と生きるか、他の道を選ぶか。
残された遺産を前に、考え抜いた末に二人が選んだのは、自由に生きる道だった。
何か明確な目的があったわけではない。だがこの千載一遇のチャンスを生かして、ペットではなく「人」に、なりたいと思ったのだ。
二人で銀河市民権を取り、全財産をかき集めてこのオンボロ船を買った。そうして細々と輸送の請け負いなどをしながら、ここまできたのだった。
「星系政府から、入領許可って来た?」
「まだですわ。こんなケースは稀ですから、モメているのでは?」
問いに、イノーラからそんな答えが返ってきた。
エルヴィラ自身、さもありなんと思う。何しろいきなり領域内へ、通告なしのワープで来てしまったのだ。問答無用で撃ち落されても文句が言えない状態で、何事もなく留め置かれているだけマシなくらいだ。
「ここが発生星系じゃなかったら、ちょっとよかったんだけどなぁ」
「文句があるなら、例の星間生物へどうぞ。何なら追いかけますわよ?」
嫌味たっぷりに姪っ子が言う。
だが今の状況でそんなことをしたら、ここの星系政府から「無断侵入後、勝手に星系を離脱したならず者」として指名手配されかねない。姪っ子はそれを分かっていて言っているのだから、意地が悪いというものだ。
「誰も追いかけるなんて言ってないじゃない……。でもホント、発生星系じゃなければ簡単だったんだけどな」
「発生星系」と言うのは、「その星系を生まれ故郷とする生命が存在する」もののことだ。だから地球を擁する太陽系も、発生星系になる。
このネメイエス星系の場合は、第六惑星がネメイエス人の生まれ故郷だった。
恒星間航行技術がこの銀河で確立したのは、ずいぶん昔の話だ。そしてさまざまな知的生命体が、その好奇心や必要度によって差はあるものの、ある程度の植民星を持っている。
といっても、地球の植民地とはかなり違う。なにしろ宇宙は広くて、生命の存在する惑星は稀だ。だから環境の似た星を見つけて惑星改造し、移民するだけでいい。
ただそれでも、生命を有する惑星はある。そしてさらに稀ではあるが、知的生命体が存在する場合もある。
当然ながら、植民をする側とされる側の間で大問題になり、戦争へ発展するケースまで出た。
これらを解消するために出来たのが「発生星系」の概念と、「恒星間航行技術を持たない生命体の保護」のルールだ。
このルールにより生命が発生している星系は、自動的に異星人の干渉が禁止される。通常の星系は自由に植民が可能なのことと比べると、その違いは明らかだ。