Episode:14
「おばさま?」
不審に思ったらしいイノーラが訊いてきたが、エルヴィラは答えなかった。宇宙蝶たちに、目を奪われていたのだ。
瞬きながら乱舞を始める、宇宙蝶たち。漆黒の闇の中、地球に良く似た蒼い星を背景に踊るさまは、幻想的で神秘的だ。
その彼らが、口々に答えている。たくさんの光が、たくさんの「ありがとう」を形作る。
「通じた……」
やはり彼らは以前、銀河文明のどこかの星と交流があったのだ。だがそれはいつの間にか忘れ去られてしまい、たまに出会う見知らぬ存在同士でしかなくなってしまったのだろう。
「……あの惑星、もしかすると昔、彼らと交流があったのかもしれませんわね」
目の前の蒼い星に、姪っ子がそんなことを言う。
ああそうか、とエルヴィラも思った。だから彼らは、ここへ自分たちを連れてきたのだ。
データを見るかぎり、惑星は今は無人だ。だがかつて文明があったようで、数々の遺跡があるとなっている。
「あとで降りてみようか」
「ええ」
珍しく毒舌応酬なしに、エルヴィラとイノーラの意見が一致した。
外ではまだ、宇宙蝶たちが乱舞している。
「これも……通じるかな?」
そんなことをつい口にしながら、エルヴィラは別の信号を送った。
銀河系で「ありがとう」と並んでもっともよく使われるもので、意味は「幸運を」。危険な宇宙を旅する者たちの、標準的な別れの挨拶だ。
宇宙蝶たちも、すぐに返してきた。「ありがとう」「幸運を」それが何度も何度も続く。
やがて気が済んだのか、彼らは一ヶ所に集まり……輪を描いてから消えた。どこかへ跳んだのだろう。
あとには何事もなかったかのように、暗い宇宙が広がるばかりだ。
「……ここの管轄政府に、手続きしなくちゃね」
「そうですわね」
しばらく虚空を見つめたあと、二人は中継ステーションに向かうため、船を動かした。