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Space Shop! ~売られた地球を買い戻せ!~  作者: こっこ
第一章 世話焼き飛行は損のモト?
13/86

Episode:13

 近づいてきた宇宙蝶たちは、最初は複雑な明滅を繰り返していた。おそらく、会話できると思ったのだろう。


 だがすぐ、こちらが例の二パターンしか返せないことに気づいたようだ。何度か片方のパターンを微妙に変えて発した後、船の周囲を取り囲んだ。次いで全方位モニターに線が描かれる。


「これ、何?」

「このくらい、ご自分で判別できるようになってくださいな。モニターが精神波を視覚化したものですわ」


 なるほどと思いながら、周囲に視線をめぐらす。どうやら精神波は、宇宙蝶同士をつないでいるようだ。

 それがさらに複雑に伸びていって、網の目のようになったところで、蝶たちが光り始めた。


「この生物は、こうやって一斉に超光速飛行をするんですわね」

 感慨深げに言う姪っ子の隣で、エルヴィラは慌てて操作する。

「大変、カメラカメラっ!」


 観測用カメラはまだ外へ出したままだから、急いで回収しないと置き去りになってしまう。

 いくら中古とはいえ、安くははないのだ。ボロ船をやっと買った身分には、余計な出費は辛い。

 どうにかカメラを回収したところで、宇宙蝶たちが光を増した。


「次元波を確認、瞬間移動します」

 イノーラの言葉と同時に、軽いめまいを覚える。が、それだけだった。


「ホントに移動、したの?」

「現在確認中……座標出ました。先程の場所よりおよそ四万五千光年移動、ネメイエス星系第四惑星軌道上です」

「よ、四万五千光年?」


 驚いて銀河系図を見ると正反対とまでは言わないが、相当離れた位置へ来てしまっている。

「帰り、どうしよう……」

 思わず口を突いて出たのは、そんな言葉だった。


 いくら超高速飛行が当たり前とはいえ、超長距離となれば時間も費用もバカにならないのだ。慣れたベニト星系まで、これではいつ帰れるか見当もつかなかった。

 イノーラのほうは、全く別のことに気を取られているようだ。


「なぜこの星系なんでしょう……? もっと近い場所に、似たような惑星は幾らでもあったはずですのに」

 わざわざこんな遠くへ連れてきたことに、納得が行かないらしい。


 当の宇宙蝶たちはまだこの船を運んでいる。どうも目の前の第四惑星に船を降ろす気のようだ。

(ちょっとそれは困るなぁ……)


 大気圏突入は出来ないことはないが、何かと面倒だ。ましてやこんな形で強引にだと、船が破損しかねない。


「ごめんね、せっかく連れて来てくれたのに」

 謝りながら反物質エンジンを点火し、逆方向へほんの少し加速する。

 無重力で暮らすがゆえに、力の変動には敏感なのだろう。宇宙蝶たちが驚いたように瞬き停止した。


 目の前の惑星へ連れて行きたい彼らと、ありがた迷惑な自分たち。どちらも悪意はないだけに、伝わらないことがもどかしい。

 なにか少しでも……そう必死に考えるうち、思い至った。


 宇宙蝶は、銀河文明の標準的な救助信号によく反応する。これはつまり、信号の意味が分かっているということだろう。


 ――だとしたら。

 ダメ元で、信号を出してみる。ごく短い、単純な信号。銀河系では救助信号以上によく使われるもので、意味は「ありがとう」だ。


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