Episode:12
姪っ子の問いで、やっとエルヴィラは気がついた。
ともかく広大な宇宙は、光速で移動しても隣の星系まで最低でも数年はかかる。
だが救難信号を出すような船はだいたいが、一刻を争うような状態に追い込まれているわけで……とてもではないが、数年も待てない。
一方で宇宙蝶のおかげで助かったという話は、たまに報告されている。その辺を考えると、宇宙蝶は遭難信号を受け取ったあと、超光速移動で助けに来たと考えるほうが自然だった。
「自力で瞬間移動する種族とか、いるもんね……」
手段の違いはあれ、宇宙空間では超光速移動。それが銀河市民の共通認識だ。だから宇宙蝶が超光速移動しても、誰も気にしなかったに違いない。
だがエルヴィラは、思考パターンがいまでも地球人に近いのだろう。子供の頃に見ていたテレビ番組その他のせいか、超光速移動というと、宇宙船しか出来ないイメージがあった。
「来ましたわよ。どうなさいますの?」
イノーラに言われて考え込む。
彼らとの「自在な意思疎通」は、現状では望み薄だ。伝え合いたいという意思は互いにあるが、それを可能にする手段がない。
加えてこちらが送ったのは、恐らく「呼びかけ」と「救助」を意味するものだ。ならば向こうは、助ける気満々だろう。
もちろん、助けてもらうこと自体はむしろありがたい。何しろ今この船は、エネルギー切れで身動きがとれないのだから。
だがいくつか聞いた話のように、致命的な環境へ連れて行かれて、昇天してしまってはたまらない。
それだけは何とか避けなければいけないが、どうすればいいのか。
そのとき、エルヴィラは気づいた。目の前の姪っ子は、状況の割にやけに落ち着いていないだろうか?
「イノーラさ、心配じゃないの?」
「何がです?」
どう聞いても慌てているとは思えない、そんな口調で返事が返ってくる。
「だから、あいつらにおかしな環境の惑星へ連れて行かれないか、ってこと」
説明を聞いた姪っ子が、あからさまに見下した表情を見せた。
「おばさま、連れて行かれた惑星の統計を、見たことがありまして?」
「……ない」
だいいちそんな統計、発表されていただろうか?
やれやれといった調子で姪っ子がため息をつく。
「その調子だから、無駄な行動が尽きないのですわ。少しは学習なさればいいのに」
一通り嫌味を言ってから、説明が始まった。
「銀河政府の遭難船統計を見るかぎりでは、連れて行かれた環境はすべて、重力や気温は私たちが生存可能なところです。ですから資料に嘘がないかぎり、心配はありませんわ」
「そうだったんだ……」
イノーラがいつの間に資料を手に入れたかは分からないが、そういうことなら安心だ。それに余裕綽々の姪っ子の態度にも、納得がいく。
「だとすると彼ら、遭難してる船見つけては、一定の環境の星へ連れてってるってこと?」
「資料を見るかぎり、そうなりますわね」
不思議な話だ。
「昔、あたしたちみたいな種族と、交流でもあったのかな……」
「可能性は高いかと」
姪っ子の答えに、宇宙蝶を見ながら思いを馳せる。
本当にそうだとしたら、かつてどんな物語が、そこにあったのだろうか?




