Episode:11
「そもそも彼らは、私たちの出した信号に反応していますのよ? なのになぜ、次は反応しないと思うのか、その根拠こそ聞かせていただきたいのですけど」
こういう理屈での論戦になったら、この姪っ子にはかなわない。
「じゃぁそういうことで、早く流そ」
エルヴィラは早々に議論を打ち切り、実践へと話を持っていった。
思う存分言えなかったイノーラは、ずいぶん不満げだったが、じき気持ちを切り替えたらしい。華奢な指が操作盤の上を舞った。
「どうなるかな~」
「さっきと同じことを……語彙数が少なすぎますわ。やはり脳が老化し始めたのでは?」
「はいはい。次のステーションででも考えてみる」
言いたい放題の姪っ子にぞんざいな返事をしつつ、事態を見守る。
宇宙蝶たちは、信号を受け取ったのだろう。群れのどれもが、さらに激しく瞬きはじめた。
「なんか、驚いてるかも?」
「ふつうは驚きますわ。彼らにしてみれば、そのあたりのカブリ虫が喋ったようなものかもしれませんし」
「その例え、ヤメて……」
さすがに白旗をあげる。
カブリ虫は、要するに地球産のゴキブリで、いま銀河系で大問題になっている。どうもどれかの宇宙船にもぐりこんで、他の星へたどり着いてしまったらしい。
放射線にも毒物にも強く、繁殖力旺盛で餌も選ばず僅かな隙間でOKと、ある意味で最強生物のアレは、いまあちこちの星で爆発的に増えている。
最近では自分たちのような高知能ペットと並んで、地球産の代名詞なくらいだ。
あまりの繁殖ぶりに、地球を罠にはめた例のエイリアンがひどく非難され、駆除費用を肩代わりするハメになったとも聞く。
そんなものをイノーラが平気なのは、見たことがないからだろう。地球は四歳の時に離れているし、買われた先は、さしものアレも生存できない環境だった。
実際に見たらどんな反応をするだろう、などと思いながら、モニターを見続ける。
が、次に起こったことは予想外だった。
「――消えた?!」
「おそらく違います。方位〇・二・五に反応……宇宙蝶の群隊を確認」
慌ててカメラを振り向けると、たしかにあの姿があった。
「同じ群れ?」
「現在スキャン中……結果出ました。特徴のほとんどが一致、九九・九%の確率で同じ群れと推定します」
要するに、同じということだ。
だとすると……。
「彼ら超光速移動、出来たんだ」
イノーラが答える。
「当然では?」
どういう理屈でそういう結論になるのか分からず、視線で彼女に説明を促すと、姪っ子は話し始めた。
「彼らに遭難船が救われたという話は、さすがにご存知ですよね?」
「それは知ってる」
小馬鹿にするような言い方が少々癪に障ったが、どうにかこらえる。