Episode:10
「遭難信号に反応するのは、これでキマリか」
これも記録してあるから、さらにプレミアをつけて売れるはずだ。
「それで、このあとどうするかは考えてありますの?」
「なーんにも」
平然と言ってのけたエルヴィラに、イノーラがあからさまな軽蔑の視線を返す。
「おばさま、どうしてそうやって何の計算も無いまま、コトを進めるんですの?」
「そりゃ、おもしろそうだから」
それ以外の理由など、エルヴィラにあるわけもない。
「行き当たりばったりにも、限度ってものがありますわ」
「いいじゃない、それでいつも上手くいってるんだから」
これは事実だった。計算高いイノーラと違い、エルヴィラは万事出たとこ勝負なのだが、すべて動物的カンで切り抜けてしまう。
姪っ子はそれが癪に障るようだが、気にするエルヴィラではなかった。
「あ、彼らこっちへ来るね」
観測用カメラに映る宇宙蝶の群れが、膜を広げて移動し始める。
「ここへ来るのに、どのくらいかかるかな」
「しばらくかかりますわ。彼らは宇宙船ほど、スピードは出ませんから」
「それもそうか」
恒星風を利用したとしても、宇宙は広い。移動するにはそれなりの時間が必要だ。
「今のうちに、少しでも言葉が分からないかなぁ」
「本当にその頭、飾りでしかありませんのね」
言いながらイノーラが、記録データを動かした。先ほどの、恒星風に宇宙蝶の子供が飛ばされたところが、映し出される。
「ここですわ」
スローで再生しながら、イノーラが説明し始めた。
「ここは二つのパターンしかありません。状況も限定されてますから、かなり絞り込めるかと」
たしかに姪っ子の言うとおりだ。それぞれかなり生態が異なるエイリアンだが、こういう危機的状況で、百万光年先の星系の話を始めることは、さすがにありえない。
ましてや飛ばされたのは子供だ。
「この場合たいていは、『助けて』って叫ぶか、保護者を呼ぶかだろうなぁ」
実際、蛍光パターンも二つしか出ていない。
「どちらがどうとは特定は出来ませんけど、助けを求める信号だと思いますわ」
イノーラも同意する。
とはいえ宇宙は広いわけで、中にはこういう状況で「もっとも信頼する相手に罵詈雑言を浴びせる」種族も居るから、断定は出来ないのだが。
「じゃぁ彼らが来たら、直接訊いてみよっか」
「来なくても、訊けると思いますけどね」
言葉の意味が分からず考え込んだエルヴィラを、「こんな事も分からないのか」という瞳で、イノーラが見た。
「先程と同じように遭難信号の帯域で、このパターンを流せば済む話です」
姪っ子の言葉に、あっと思う。言われてみればその通りだ。
「でも向こうは光だよ。それでだいじょぶなのかな」
「出来ないことは言わないと、ついさっきも言いましたわ。もう忘れるなんて、脳が老化したんじゃありません?」
毒舌を次々と吐き出すイノーラは、なんとも楽しそうだ。