Episode:01
長らくお休みを頂いて申し訳ありません。
もともと2時間動いて4時間休むような、どうやっても丈夫とは言い難い体質なのに、朝4時半に起きて0時過ぎに就寝の生活となり、必要最低限の家事をこなしては横になる状態でした。
年明けにやっとその生活が終わり、だらだらとですが、いろいろ再開できそうです。
この作品はだいぶ前に書いたものを少々改稿、今年GAGAGA文庫の小学館ライトノベル大賞に応募したものです。
なんとか最終10作には残りましたが、賞は逃してしまいましたw
というわけで、古巣に置くことにします。
これからもよろしくお願いします。
光の筋となって、周囲を星が流れていく。
銀河系の船ならどれも標準装備の全方位スクリーンは、宇宙の旅には最適だ。まるで自分が船になって、飛んでいる気分にさせてくれる。
だが今のエルヴィラは、そんな気分ではいられなかった。目の前に次々と浮かび上がるデータは、どれも危険なものばかりだ。
「イノーラ、エネルギーの残量どのくらい?」
「少々足りませんわね」
六歳違いの姪っ子が、かなりシビアな状況にもかかわらず冷静に答える。
表情はスーツの遮光バイザーに遮られて、今は見えなかった。でもイノーラは知的で端正な顔を崩さず、冷静なまま、情報を的確に拾い上げているはずだ。
ぴったりしたスーツに浮かび上がる身体の線はどちらかと言えば細く華奢だった。そしてやはり細い指が、膨大な船の機能操作を次々とこなしていく。
「生命維持装置なんかはできるだけ止めて、浮いたエネルギー回しちゃって。照明も切っていいから」
「そんな初歩の初歩、わざわざ言っていただかなくても、とっくの昔にやってますわ」
この状況での最優先事項は、恒星嵐の荷電粒子と放射線を防ぐことだ。船の水だの備品だのは、生き残ってから考えればいい。
「このオンボロ船、保つといいんだけど」
さっきから耳がどうかなりそうなほど、しつこく警告音が鳴りっぱなしだ。
「そう思うのでしたらおばさま、こんなこと、なさらないでください。恒星嵐は回避するもので、突っ込むものじゃありませんわ」
「だから、その『おばさま』はダメだって、いつも言ってる!」
針路を調整しながら、エルヴィラは怒鳴り返す。もう少し歳を取ってならともかく、今から『おばさま』などとは呼ばれたくない。
目標のモノとの距離が狭まってきた。
「さすがに大きいな……」
全長はエルヴィラたちの宇宙船よりあるだろう。だがそれでも、エルヴィラたちが遭遇した群れの中では、いちばん小さい個体だ。
少し真ん中が膨らんだ細長い中心部と、そこから広がる四枚の光る膜のようなもの。
どことなく地球にいた蝶を思わせる飛行物体は、宇宙空間で生きる生命体だ。詳しい生態は不明だが、大きな膜を帆のように使い、風の代わりに光子や宇宙線を捉え、その光圧を〝追い風〟として集団で宇宙を旅することで知られていた。また、それなりの知能があるらしく、遭難信号を出した宇宙船が近くの惑星に連れて行かれた、という話を時々聞く。
(その連れて行かれた先が、ちょっと問題だけどね)
彼ら〝宇宙蝶〟から見れば、宇宙船と乗組員の種族などまったく区別がつかないのだろう。中には致命的な環境を持つ惑星へ連れて行かれてしまい、全滅した実例もある。
データをチェックしていたイノーラが、忠告してきた。
「このままでは、間もなく追い越しますわよ」
「分かってるってば!」
エルヴィラはエネルギーの残量を見て、とっさに反物質エンジンのほうを逆噴射させた。主力の推進器として使われることはないが、こういう急制動には便利だ。
それに、ここで主エンジンを使ったら、あとで間違いなくエネルギー切れになる。
船体を軋ませながら船が速度を落とした。追っていた宇宙蝶の近づき方がゆっくりになる。