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幕間6 逃亡王ポチ (ポチ視点)

 今回はポチ一号視点のお話です。

*******************************


挿絵(By みてみん)


 ここ……ドコ? とってもくらいデス。とってもさむいデス。

 ワタシ、なんでこんなところにきてしまったのデショウ。

 ワタシ、おようふくはチョウゴウキンなんデスけど、なかみはナマナマしいんデス。あついチシオがながれているんデス。きんぞくせいのメタリックなチシオがたっぷりどくどく。

 だからさむサには、とってもビンカンなんデス。

 ずいぶんムカシ……こわいひとにいじめられて、かおにイシなげつけられて、ないてにげだしちゃって。

 それからずっとずっと、とあるみずうみのソコにかくれていまシタ。

 そうしたらあるひ、ウサギさんとおとこのコたちがやってきて。びんぼうゆすりするなっておこられまシタ。

 ワタシのせいで、じしんがおこってると、いうのデス。

 それでワタシは、もっともっとキタにある、しおのみずうみにうつりまシタ。

 なぜなら、こわくていっポもうごけないワタシを、ウサギさんがはげましてくれたからデス。


『おそれるな。少しずつでいい。昨日より一歩だけ、前に出るんだ』


 ウサギさんはワタシに、マエへすすむユウキをくれたのデス。

 ひっこしさきのしおのみずうみは、とってもかいてきデシタ。

 だってソコのほうにオンセンがわいているんデス。とってもきもちよいのデス。

 ぬくぬくあたたまりながらごろごろくつろいでいたワタシは、あるヒおおきなとんねるをみつけました。

 おうちにしようかしら、と、ゆうきをだしてはいってみました。

 でも、つきあたりのカベがありません。

 すすむ? どうする?


『おそれるな』


 ウサギさんのおカオがうかびました。

 ワタシは、もっともっと、マエにすすんでみたくなりました。

 すこしずつすすんで。ながいながいとんねるをとおって。

 そしてついに、ココにいきつきマシタ。

 でも、むりにはいったらイリグチがうまってしまいマシタ。

 ワタシのカラダ、おおきすぎたのカシラ?

 しかしみずのそとにでるのは、さすがにこわいデス。

 ワタシ、みずくさだらけでとてもウサギにみえまセン。はずかしいデス。

 どうしまショウ。

 どうしま……

 どう……


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 おや?

 だれかが、ワタシをよんでマス。

 これは、あらがえないチカラデス。

 ぐんぐんひきよせられマス。だれ、デスカ?

 かなりちかくデスね。20パッスース? めとはなのさきじゃないデスカ。

 おっと。テのなかにおちてきマシタ。ワタシをよんでるヒトが。

 あらまあ。なんてかわいいウサギさん!

 く、くすぐったい。なんデスカこのハチのようなきんいろのつぶつぶは。

 ヒカリのつぶつぶ、たべられマスカ? むり? ざんねんデスネ……。


「や……やった! エティアから数時間でここに? すごいぞポチ!!」


 え? いいえワタシ、三百じかんほどここで、「どうしよう」シテマシタけど? 


「ポ……チ?!」


 はい。ポチでございマス。

 あなたさまは。ワタシをよんだあなたさまは、つよいウサギさんにそっくりデスネ。

 デモ、その01だけの1ビビットシュウハスウ。これはまちがいなく……

 ぴぴ、さま、デスネ?

 まえすとろの、まえすとろデスネ?

 1ビビットシュウハスウは、はいイロのまえすとろのアカシ。

 なんということ。このジジツをかんがみるに。

 ワタシは、イマスグ、けっこん、しなければならないでショウ!


『ぴぴ、さま。ぱいる・だーおん、して、クダサイ』


 ぴぴ、さま、を、わがムネにおむかえしなければならないでショウ!


『ぴぴ、さま。ぱいる・だーおん、して、搭乗して、クダサイ』

「あ、会いた……かった……ポチ一号!!!」


 ワタシもデス、ワタシをつくったひと。

 さあ、わがムネの、タカサゴノセキへどうぞ。


「搭乗機がないんだけど、腕輪でなんとかなるよね? これ、ポチ操縦機の改良版なんだ」


 はい。1ビビットシュウハスウがでるのでしたら、ワタシたちはもんだいなく、けっこん、できマス。


「よかったぁ。よし! ポチ! 合体だ!」




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 ひとつ

 われらはひとつ

 つながれ とけあえ

 1となれ

 1と1よ、つながりて∞となれ――


010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101




 a

 a

 あ。

 あ~♪

 るるりららら。りー♪

 融合、成功! 視界すっきり・思考すっきり・滑舌なめらか・絶好調!

 漢字変換開始!

 胸の中にピピ様を収めましたとたん、この調子でございます。

 BIBRA BIBAAAAA!

 声紋をシュガー・スイート・テノール、マエストロ・ソートアイガスに設定! さくせんは「ぴょんぴょんいこうぜ」を選択! 

 神経シンクロ率確認!

 ……85パーセント? うーん、初めはこのぐらいでしょうね。徐々に上がっていくでしょう。

 ピピ様の大脳の情報から敵を捕捉! 

 ほう。池の中につっ立ってるすっぱだかの生物が敵ですね。

 純血メニス。魔人タイプ。右手にかかげているのは韻律の光球。

 魔力レベル測定!

 む……魔道師レベル100?

 統一王国時代の大人気幻像遊戯『神獣大戦』のラスボスクリア後に出現する、隠しダンジョンの中ボスと同等? ふううう、隠し神獣レベルじゃなくてよかったです。

 おや? 敵が剣を拾いましたか。構えと薙ぎの威力から剣士レベルを測定!

 ふむ……レベル55。

 こちらは、『神獣大戦』通常モードファーストクリア時平均レベルの戦士と同等。

 よかった。私の性能で十分倒せます。

 しかしあの剣は見覚えがあります。あのフォルムは、戦神の剣。でもあの柄についている刻印はオリジナルではなく、我がマエストロ・ソートアイガスのもの。

 補正計算開始!

 コード01、エクス・カリブルヌス・コピーを入力。

 あ、あら?

 剣士レべル……


 340,282,366,920,938,463,463,374,607,431,768,211,456?!


 ま、まさかそんな……あの剣は128ビビットの頭脳をもっているのですか?! 

 し、勝率……れ、0.000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,001パーセント?!

 ……。

 ……。

 ……。


「お、おいポチ! なんで回れ右してるんだ!」


 ……。

 ……。

 ……。


「ポチ!融合が解けて分離したぞ。シンクロ率が下がってきてる。 戻れ! 逃げるな! せめて池に浮いてるそこのメニスを……メイテリエをすくいあげてくれ!」 


 ……。

 ……。

 ……。

 は、はい……。


「よし、いい子だ。その人を肩に乗せろ。さあ、振り向け! がんばれ! 怯えるんじゃない!」


 でも。でも。ぴぴ、さま、むりデス。カチメがありまセン。

 にげマショウ。とっととにげマショウ。


「逃げちゃだめだ! ポチ! 一歩だけでいい。さあ、踏み出せ! 」


 ……!


「自信を持つんだ! おまえは強い。ルーセルフラウレンより何百倍も、何千倍も強い!」


 う、ウサギさん? つよいウサギさん? 


『少しずつでいい。昨日より一歩だけ、前に出るんだ』


 ウサギの、ぺぺさん……


『自信をもって。ヌシさんは、神獣よりきっと何百倍も、何千倍も強いよ!』


 ふしぎデス。ワタシあの、つかいまウサギのぺぺさんにはげまされているようなキが……。

 このカタは、ぴぴさまなのに。ちがうウサギさんのはずなのに。

 ふしぎデス……。


「ポチ! 剣補正を外せ! 」 


 はい?


「赤猫は絶対、敵の味方にならない。補正を外せ!」


 ……! はい! そうしますと……。

 ……!! そうごうレベル75? こ、これは、ラクショウです!


「だろう? いくぞポチ! 前に進め!」


 マエに……マエにすすむ……いっぽ、ふみだす?


「そうだ! 進め!」


 う、うおおおおおおお! 

 私! 私! すすみたい! すすみたい!

 がんばりマス! BIBRA BIBAAAAA!!!





 ふぉおおおおお! シンクロ率回復! 思考能力アップ! 漢字変換再起動!

 力が。力がみなぎってきます。

 そう……私。私は、変わったんです。

 ウサギのペペさんに出会って、変わったんです。

 前にすすむことを、知ったんです。

 だからもう、石を投げられても逃げださない! と思います。た、たぶん……。

 さあ、対戦開始!

 敵は魔人です。絶対死にません。ですがダメージを与えることは可能です。

 とりあえず灰にしてしまえば、再生にかなりの時間がかかります。すなわち、勝利と同義。

 さっそく先制しましょう。相手の韻律を封じましょう。


『ぱ……パッチン・ウェーブっ!』


 両手を打って池から敵を吹き飛ばし、空間を真空にして……

 よし、韻律封じ成功! 呼吸できなくて敵が喉元をひっかいてます。

 いい感じです!

 次は――


『ろ、ろ、ロケットル・パーンチ!』 

 

 腕を飛ばして敵を地に固定!

 ふうよかった。剣でふり払われそうになりましたが、本当に剣の補正は入れなくていいみたい。「神獣大戦」の戦士系キャラの初期装備、たけざおと同じぐらいのスペックかしら。

 ちなみに。私のものさしとなっているこの情報は、統一王国時代に流行った幻像遊戯。ピピ様とマエストロが浮島からもってきた端末を使い、一時期夢中になって対戦しておりました。端末から立体幻像が出てきて、がっぷりよつして戦う対戦ものの遊戯です。

 こんなことを思い出せるぐらい、今の私は余裕。だって敵は、私の腕の下でじたばた。

 ふっ。総合レベル75なんて、「神獣大戦」の初販時のキャップレベルですものねえ。

 機能更新とさらなる拡張機能を搭載したレベル解禁後のもの、すなわち大陸全土全国販売バージョンでは、初心者と同義。

 敵は魔道師タイプですから、韻律にさえ気をつければノーダメージも夢ではありません。


『パッチン・ウェーブ!』


 真空波で韻律を唱えられないようにしてから、


『チェスト・ファイヤー!』  


 こんがりローストして、


『超合金ウサギ足!大回転キぃーック!!!』


 や、やった! きれいに攻撃(コンボ)が入りましたぁ!


「い、いたい! いたいぞ! なにするんだ! ご主人様に言いつけてやる!」

 

 さすが魔人。ぴゅーぴゅー真っ白い血をふきだしてるけど立ってます。

 でも、泣いてます。このメニス、私に石を投げつけた魔王より弱いのかも。

 っていうか、これじゃ私、すごくいじめっ子みたい……


「躊躇するな! 踏み潰せ!」


 肩に乗っているメニス、メイテリエさんが叫んできます。

 するとふしぎなことに私もその気になりました。融合しているピピ様の意思が働いているからでしょう。

 現在のシンクロ率、99パーセント。なんてすばらしい! 私とピピ様は、ほぼ完全にひとつになっています。


『ニーンージーンー……』 


 私は腰を落とし、ロケットルパンチで放った腕をしゅしゅっと元に戻して、お股のところで両手を鉤形に構えました。みるみる波動の塊が、両手の中で固まって大きくなっていきます。

 「テリエ、テリエ……」と泣きじゃくりながら、わさわさと這ってくる真っ黒こげの敵。

 私はそいつに、溜めきった波動をぶっ放しました。


『ぶしゃー!!!』


 ……! 

 やった! 

 やりました! 

 敵が粉々に引きちぎれながら、白い寺院の向こうに吹き飛んでいきます。

 被弾ゼロ! 対戦、勝利ー!

 私は池から走り出て戦神の剣をひろい、肩に座っているメニスに預けました。

 それから寺院の西の端の塔の中ほどをひっつかみ、てっぺんの部分をぼっきんともぎとりました。お菓子の箱からチョコのボールを出すように、手のひらの上でぶんぶん振ると。


「きゃああああ?!」

 

 ちっちゃなメニスの子がぽとりと落ちてきました。

 ピピ様の脳情報では、これはフラヴィオスという子です。探していた、メニスの子です。 


「な、なにこれ? なにこれ? すごおおい!」


 目を丸くして見上げてくるその子は鼻血が出そうなほどかわいい容姿をしていました。くりくりとした菫色の目。鳶色の髪。みたところ、メニスの混血のようです。

 私はその子も肩に乗せ、南へ走りだしました。るんるんとスキップしながら。

 街に住むメニスの人々が悲鳴をあげて、通りから逃げていきます。

 ごめんなさいね。ちょっとどいてくださいね。

 私はあやまりながら、どっすんどすすん進みました。おうちはこわしてませんよ? ええ、一軒たりとも、つぶしてません。


『寺院の地下からの他に、聖域へ行ける道はあるかな? ノミオスたちと合流したい』


 肩に乗っている大きい方のメニスに聞くと、いったん地上に出ろと言われました。聖域なる処へ至るとても古くて秘密の抜け道があるのだそうです。直接そこへ至る道が。


「でもそこはとても狭い。このお化けウサギは入れないぞ」

『え……』


 メイテリエさんにそういわれて、私はとても悲しくなりました。

 私、みなさんと一緒に行けないんですか? お別れしないといけないんですか?

 せめてお化けなんて呼ばないで……。た、たしかに昔、ウサギさんと一緒にいた男の子に亀と間違われたことはありますけど。全身に水草生えてるのはしかたないじゃないですか。数百年ほど、水の中に棲んでたんですから。

 身をかがめて南の抜け穴を通り抜け、続く縦穴をえっほえっほと這い登っていますと。

 突然、無数の真っ白い蝶々に我が身が包まれました。

 これは……!


「くそ! アイテリオンか! 里に戻ってきたんだな」


 タカサゴノセキからピピ様の叫び声が。いきなりシンクロ率が下がりました。なんと敵の親玉がすぐ近くにいて、蝶々を放ってきているようです。

 私はなんとか穴の外、すなわち地上に出ましたが、そこで蝶々たちに固められ、うんともすんとも動けなくなってしまいました。


「メイテリエ! ヴィオを連れて聖域へ行ってくれ! ここは俺が食いとめる! ポチ! パッチンウェーブで蝶をつぶせ!」


 はい! ピピさま!


『パッチンウェー……』 


 ぐぐぐ。ががが。い、いったいどれだけのチョウがいるんでしょうか。

 装こうのかんせつのすきまにはいりこんできて、カラダがう、う、うごきませ……

 し、シンクロりつ、ゼロ……


「ポチ!」


 ぴぴ、さま……。も……もう、だめデス。

 ぴぴ、さまを、タカサゴノセキから、射出、します。


「ポチ! まて!」


 だいじょうぶです。ワタシがひとりでくいとめます。メニスといっしょににげて、クダサイ。


「でも!」


 いまから、ちょうごうきんのそうこうを、はれつさせますね。そのすきに、どうか、にげてクダサイ。

 ぴぴさま。どうか、おたっしゃで――


「だめだポチ!」  


 そうこう、はずし、マス――!!

 




「ポチイイイイイイイッ!!!」

 









 …………………………ァァァァァァァァァアアアアアアアアア!

 はずかしぃぃぃいいいいいいい!

 ワタシはだか! はだかはだかはだかー! いやぁぁぁあああああっ!

 で、で、ででででもっ! だいじょうぶ!

 ワタシ。ワタシは。

 にげあしだけは、ハヤイ! デエエエエエエス!

 せかいいち! ハヤイ! デエエエエエス!

 BIBRA BIBAAAAA!!!!

 すたこらさっさモードで、はしりまぁあああす!!

 はしる。はしる。はしる。はしるううう!

 うぉおあああああああああああああああ!

 はしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしる!

 はしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしる!!

 はしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしる!!!

 めにもとまらないデス。ひかりのそくどでいどうしてマス。だーれもおいつけないデス!

 ほーらもう、きたのしゅうにはいりマシタ。

 ほーらもう、きたのうみにとびこみマシタ。

 マッハ! マッハ! マッハアアアアア! マッハでおよぎマァアアス!

 きんめだる! きんめだる! 

 しょうりのどるふぃんきっくキタァアアアアアア!

 ほーらもう、しおのみずうみがみえてきマシタァア!

 ふぉおおおおおおおお!!

 

 ……。

 ……。

 ……。

 はあはあはあはあ。

 ああ、こわかったデス……。

 やっぱり、このしおのみずうみの、ソコにあるオンセンはさいこうデス。

 ここが、いちばんおちつきマス。ああ、なんてぬっくいの。

 しかしワタシ。

 おもいっきり。ぴぴ、さまをおいぬかしたような、キがするんですけど。

 ……。

 ……。

 ……。

 まあ。いっか。

 ひさしぶりにうんどうしたら、つかれマシタ。

 しばらく、ソコにしずんで、やすみマス。

 ぴぴ、さま。

 どうか。

 どうか。

 ごぶじで。おげんきで。

 では。

 ごきげんよう。


 おやすみ。なさ。い。



北のヌシさまのお話は「第2章くろがねの歌・10話・世捨て人」をご参照ください。


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