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幕間5 日記 (技師見習いの少年視点)

(今回は、技師見習いの少年視点のお話です)


************************************

 7124ねん 芽ぶく月 7日


 きょう、社会見学で、王国でいちばん大きい工場を見学しました。

 工場で働くゆうき人形をつくっているところです。ぎしの人が説明してくれました。

 びんの中で、赤ちゃんみたいな生きものがばいようされていました。

 びんの中にいれると、三ヶ月でおとなになるそうです。

 ゆうき人形は、大陸中にゆ出されて、工場ではたらく作ぎょう員になるそうです。

 これは、大むかしの王国からつたわっているぎじゅつなんだそうです。

 ぼくは、すごいなぁと思いました。ぼくも、ぎしになっていろんなものを作りたいと思いました。

 初とう学校をそつぎょうしたら、ぎしになる学校に入りたいです。 


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 7124ねん 豊じょうの月 15日


 三日前に、ぼくはおししょうさまにでし入りしました。

 ねんがんの、ぎしになるだい一歩です。

 初とう学校をそつぎょうして、夏休みじゅう、学校をさがしました。

 ほんとうは、絵本にでてくるふんえんの寺院にでし入りしたかったです。

 でもそこは、えらい王さまたちのめいれいで閉まってしまったので、今はもうないそうです。

 しゅうしょくセンターのおねえさんが、おししょうさまをしょうかいしてくれました。

 おししょうさまの名まえは、アイダさまです。

 よぼよぼのおじいちゃんで、ベッドにねたきりです。

 ぼくがすみこみで、ごはんを作ってあげたり、体をふいてあげたりしています。

 つい最近まで、天にうかぶ島ではたらいていたそうです。すごいなぁ。

 いっしょけんめいがんばって、ぼくもりっぱなぎしになりたいです。

 でも、このおうちには、炉がないような気がするんだけど……

 どこにあるんだろう?


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 7125ねん 霜の月 3日


 かなしいことが、おこりました。

 アイダさまが、なくなりました。おししょうさまはメニスなので、とても長生きでした。

 六百四十三さいだったそうです。

 おいしゃさんは「老すい」がげんいんだといいました。

 純血のメニスにしては短いと、おそう式にきていたメニスの親戚の人たちがいっていました。 

 ぼくは、おししょうさまのゆいごんで、おししょうさまのご友人にでし入りすることになりました。

 ピピさまという方です。

 その人はおそう式に来ていて、おししょうさまにすがって、ものすごく泣いていました。

 大しん友だったそうです。

 それからぼくらは、なんと鉄の鳥にのって、天にうかぶ島にいきました。

 島のまわりに、イルカがたくさん泳いでいるのでびっくりしました。

 新しいおししょうさまは、俺もそろそろ、島から降りないとなぁとおっしゃいました。

 首輪はとれたけど、いごこちよくなっちゃってダラダラしちゃったとか、ぶつぶつひとりごとをいっていました。

 島には、ものすごいせつびがありました。ちゃんとした炉や、道具がぜんぶそろっていました。

 ゆめみたいです!

 アイダおししょうさま、みじかい間でしたが、どうもありがとうございました。

 やすらかに、おねむりください。

 ぼくは、りっぱなぎしになれるようがんばります。


*********************************** 

 7125年 雨の月 12日


 きょうも、ふいごをいっぱいふみました。

 金づちを持ちたいけれど、まだまだといわれます。

 きょう、鏡で下の世界を見ていたピピさまが、たいへんだーと大あわてで、樹海王国へおりていきました。

 ぼくも、おともしました。

 とても大きな貴族のおうちへいきました。ぼくは、すごく広い部屋でお茶をのみました。

 とてもきんちょうしました。

 ピピさまはその間に、貴族の人と王さまのお城へ行ってきました。

 島へ帰ったら、ピピさまはむずかしい顔をして、工ぼうにこもってしまいました。

 どうしたんだろう? なにか作ってるのかな?


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 7125年 雨の月 15日

 

 樹海王国へ行ってから、ピピさまは三日三晩、工ぼうにこもっていました。

 きょう、久しぶりに外に出たと思ったら、赤いルファの目を二セット、見せられました。

 実は、樹海王国の王さまが持っている赤い目が、こわれてしまったそうです。

 あの目を作ったサナダさんはすごいなぁと、おししょうさまは感心していました。

 王さまの目は、実は一定の時間がたったら必ずこわれるようになっていて、内ぞう電池のじゅ命が、わざと5555555時間55秒きっかりで切れるようにせっ定されていたそうです。

 そのときピピさまは電池を入れかえて応急そちをしてあげていたのですが、それが割れてしまったそうです。

 サナダさまのまねをして、また同じ時間だけもつように修理したはずが、うまくできなかったなぁと頭をかいていました。

 工ぼうから出してきた二セットの赤い目は、王さまの目がこわれた時にそなえるため、二十年前にアイダさまと二人で作りあいっこしたものでした。

 よく見たらどちらにも、七一零四という神聖暦の年号のとなりに、メニスのこよみの神暦で、四五四九と刻まれていました。

 ピピさまはこのオプトヘイデンで作り、アイダさまはトリヘイデンというこの島の近くに浮かぶ島に行って作ったそうです。

 ピピ様は、このままじゃ自分のは百年以上もちそうにないから、徹夜で手直ししていたといいました。それから、ふかいふかいためいきをつきました。

 アイダさまが作った方には、「はかいの目」の機能がついているんだと。

 「はかいの目」はとてもこわい機能で、人の魂をすいとって、その力で町を焼いたりできるんだときいて、ぼくはびっくりしました。

 この機能は、トリヘイデンの工ぼうにある特しゅな機械でしかつけられないそうです。

 神さまもたおせるほどの力なんだから、ぜったいつけるべきだといって、アイダさまははりきって作ったそうです。

 ぜったいアイダさまの方が高性能なんだけどなあ、でも、へたにこわい力がついてるからどうしよう。どっちを王さまにあげようかと、ピピさまはとてもまよっていました。

 ぼくもどっちがいいのか、わかりませんでした。

 でも、じゅかいの王さまがひとりだけそんなにすごい力をもっていたら、他の王さまたちはどうなるのでしょうか。不公平なのでは、ないでしょうか。

 そういったら、ピピさまはうーんと考えこんでしまいました。


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  7125年 雨の月 20日


 きょう、ピピさまは、樹海王国へと下りていきました。

 すごくなやんだけれど、王様には、自分が作った方をあげることにするそうです。

 「はかいの目」がついていない方です。

 アイダさまが作ったトリヘイデンの目は、ひきつづきこのオプトヘイデンに封印しておくことにして、必要になったら自分が使う、とピピさまはおっしゃいました。

 ぼくも、それがいいとおもいました。

 ぼくは、きょうはるすばんしていました。

 ピピさまはおみやげに、樹海王国の大木の樹液をかためて作った宝石をくれました。

 とてもうれしかったです。


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 7125年 炎の月 8日

 

 毎日毎日、ふいごをふんでばっかり。

 いつ金づちを持てるんだろう……。


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 7126年 花の月 1日


 今日、とくべつだよ、といわれて、ちょっとだけ金づちを持たせてもらえました!

 思ったよりもけっこう重かったし、うった鉄はへんな形になってしまいました。

 でも、とても、とてもうれしかったです!

 これからも、いっしょけんめい修行をがんばろうと思います。


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 7126年 風の月 11日


 僕とピピさまは、ちょっとの間だけひっこしをすることになりました。

 樹海王国の王さまが、赤い目をくれたごほうびにとお城をくれたからです。

 夏のあいだの別荘にしようといって、僕らはお城へいきました。

 エリシアというお姫さまがやってきて、僕らにかんげいのおみやげだといって、果物をたくさんくださいました。

 すぐおとなりの領地のお姫さまです。

 とてもきれいな女の子で、僕と同じ年。僕はうっとりしてしまいました。


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 7126年 紅ようの月 15日


 ピピさまが、明日はピクニックだといってうきうきしています。

 エリシア姫さまもさそったら、いっしょにきてくれるというのでとてもうれしそうです。 

 明日は楽しくなりそうです。でもちょっとさびしくもなります。

 あさって僕らは、天の島に帰ってしまうからです。 


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 7126年 豊じょうの月 17日


 きのうのピクニックは、とても楽しかったです! 

 僕は小さな湖で泳ぎました。姫とピピさまはボートをこいで楽しんでいました。水面がきらきらきれいでした。

 また来年、お城にこようと、ピピさまはおっしゃいました。

 エリシア姫が、まっていますと手をふって見送ってくださいました。


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 7127年 霜の月 3日


 粘性金属という材料がなくなったので、ちょっと遠出をして取りにいくといわれました。

 お弁当をたのむといわれました。

 僕もいっしょについていきます。

 ひさしぶりに下の世界へいけるのでとても楽しみです。


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  7127年 氷の月 9日


 こわいことが、おこりました。

 きのう、僕はピピさまと、粘性金属をとりに火山地帯へいきました。

 そうしたら、足もとのガスの地そうが爆発して、僕たちはふきとばされてしまいました。

 ピピさまは、僕を守ってくれました。

 でも、そのために首がふっとんでしまいました。

 わんわん泣いていたら、ピピさまになぐさめられました。

 俺は魔人だから死なないんだよと、ピピさまの首にげらげら笑っていわれました。


 しょっくでした。


 島の工房に緊急信号を入れたら、イルカたちが降りてきて、ピピさまの首と体をはこんでくれました。

 ピピさまは今、ばいようカプセルに入っています。

 三日で、なおるそうです。

 ピピさまが死ななくて、本当によかったです。


************************************

 

「ぶ。ひどいなこれ」


 昔の自分の日記を読んでて、カフェオレ噴いた。

 7127年、七年前っていうと十歳か。なにこれ、頭悪すぎる。始めの方のは八歳ごろのだからまぁ仕方ないとしても、いつまでもアルファベットを大文字ばっかりで書くとか恥ずかしい。単語と単語の間ぐらいちゃんと開けろと言いたい。時の泉に飛び込んで、過去の自分の頭をひっぱたきたい。

 でもそんな芸当ができるのは、僕の師匠のピピ様だけだ。

 生身の人間はあの時間移動装置の中で少しも耐えられない。鉱物や貴石ならまぁなんとかもつといったところ。師はメニスの魔人で年を取らないから泉の中での状態維持が可能なのだが、残念なことに各地の時の泉は今、大陸同盟の監視下にある。結界が張られ、おいそれとは近づけない。それでぶうぶう文句を言っていた。未来へ帰れないとか、なんとか。

 アイダ師は長い白髭を持つよぼよぼの老人だったが、ピピ師はぴちぴちの若者だ。

 魔人というものは決して年をとらない化け物なんだと、師匠は自分で言っている。再生能力もすごいんだぜ、と胸張って自慢してる。

 いやそれは、数年前に十分思い知ったから。生首にげらげら笑われるとか、ほんとひどいトラウマだ。 

 あれから僕はかなりやさぐれたといっていい。無口になったし。しばらく日記を書けなくなった。イヤホンで音楽ばっかり聴いていたな。

 さて、今年もピピ師は明日から、別荘である樹海王国の城へいく。

 また樹海王国の地下工事をこつこつ進めるんだろう。使役ロボットを大量に放って、蛇の大動脈とよばれる穴を改造する事業だ。王を始め高官たちともじっくりとっくり会談してくるのはいうに及ばず。エリシア姫に会うのもいわずもがな。

 今年、姫は十七才になる。いいかげんままごとみたいな交遊は終わりにして、今年こそ求婚しろよと思うんだけど、師はハンサムなカイヤート第三王子に遠慮してる。心優しい彼に肩入れして王にしたがってるから、なおさらだ。

 ここは僕がついてって背中を押してやるべきなんだろうが、でも今年は下には行きたくない。

 こっそりトリヘイデンに行って、「破壊の目」をこの手で――



 


――「あれえ? ソートくん、何これ?」

「うわ! ピピ師匠、勝手に部屋に入ってこないでくださいよ」

「うわぁきったない字。日記?」

「の、ようなものです。ピピ師匠がこっそり書いているものと似たようなものです」 


 まったくもう、いつのまに? 蒼い衣を着ている右目だけ赤い人を、僕はぐいぐい部屋から押し出した。


「ちょ、ちょ、俺がこっそり書いてるもんってなに?」

「知ってますよ僕、アスパシオンへ捧げる歴史書、とかっていう本こつこつ書いてるでしょ」


 たちまちピピ師の顔はまっかっか。いいぞ、押し切れ、僕。

 あれは単なる覚書で、てきとうな書き付けで、とか親指をくるくるからめ回してしどろもどろに答える師を、両手で押して完全にイジェクト。


「そうそう、僕は今年、別荘にはいきませんから」


 ついでに扉を閉める間際に宣言。どうしてえええとはりついてくる師を、扉を閉めてシャットアウト。

 だって僕がいると師はさらに遠慮するからね。僕のせいでピピ師がエリシア姫にコブ付きとみなされたのは否めないが、今やピピ師の方が僕より若く見える。だからなんとかなるだろう。いいかげん姫様をつかまえとかないと、カイヤート王子にかっさらわれるっていうの。

 さてと。「破壊の目」のプログラムを仕上げて準備万端にしておくか。この八番島に封印されてる、アイダ師が作った目。そのコピーを、ぜひ作ってみたいと思ってた。だれにあげるというわけでも、自分で使うわけでもないけど。技術の粋を極めた芸術品を、僕は越えたい。

 本当の師であるアイダ師を越えることこそ、僕の使命のような気がするから。


 



 ピピ師を無理やり下界へ追い出して三日後。

 水晶玉の伝信で、師の酷い嗚咽と泣き顔が送信されてきた。

 エリシア姫が木槍試合に参加したあげく、暗殺されそうになったカイヤート王子の身代わりになったらしい。

 ああ……そんな……。

 姫は王子に片思いしてるのかなっていうのは薄々気づいていたけれど。こんな形で失恋を思い知らされたピピ師を思うと、かなりかわいそうな気がする。

 と、感慨に浸る間もなく。こっそりトリヘイデンに来ていた僕は、あわてて返事を取り繕い、鉄の鳥に乗って下界へ急行した。


「死なせない!!」


 涙にまみれたピピ師は、自分の城に姫を担ぎこんでいる最中だった。 

 何度もやめてくれと説得したけど、姫は木槍試合に出たそうだ。王子が密かに狙われてることを察していたらしい。


「こうなることは知ってた。だから」


 ピピ師は城の奥の隠し部屋の電源をつけた。


「俺はこの日のために、修行してきたんだ。畑違いの、灰色の技を!」


 とたん、僕は既視感に襲われた。

 部屋の灯りに照らされて、目の前にぼうっと、いくつもの大きな瓶が浮かび上がってきたからだ。

 幼い頃、社会見学で行った有機体工場で見たのとそっくりの。

 培養カプセルの列が。 


「全カプセル通電! ブレーカー上げろ、ソートアイガス!」


 僕は急いで命じられた通りにした。涙を拭きもせず、懸命に姫に心臓マッサージを施しているピピ師に、最上級の敬称で答えながら。



はい(シー)、マエストロ!」







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