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望郷の歌 7話 桃園の誓い

「お師匠さま、交代です」――「んがっ」


 メニスの繭の見張りを始めて三日目。

 僕は妃殿下の温室で、いびきをかいて長椅子にでんと寝ている我が師を揺さぶりました。

 この温室の中は外に比べて大変涼しいです。ギヤマン張りの壁は特殊な膜が貼られていて、南国の強烈な日光を遮るようになっているからです。

 おかげで、よだれを垂らしてウトウトできるほど至極快適。


「眠ってたら、見張り役も何もないと思うんですけど?」

「あー、ごめ。ほんっと風が気持ちよくってさぁ」


 身を起こしてよだれを拭く我が師の両脇には、ダチョウ羽の風送り隊。僕の後ろにもしっかりついています。四六時中風を送ってくれるのが申し訳なくて、一時間おきぐらいに休んでもらっています。

 午前は我が師、午後は僕。夕食後真夜中までは我が師。明け方までは僕。

 こんな感じの半日交代で温室に入りびたりなのですが。繭は、なかなか割れる気配がありません。


「妃殿下を手伝ったらどうですか? 恥ずかしいですよ」

「あら、よろしいのよ」


 温室の奥で、桃色巨人の妃殿下が花鉢に水をやっています。ふんふん鼻歌を歌いながら。


「警戒心なくゆっくり安らかにお眠りになれるなんて、ここがとても心地よい癒しの場所だっていう証拠ですもの。ここを作った私としては、とても光栄なことですわ」

「い、いえ妃殿下、どうかお師匠さまの首根っこ掴んで起こして、尻叩いてこきつかってやってくださいよ」

「ちょ、弟子! なんだその言い種は」


 なんだじゃないですよ。ほんとに我が師はだらけてばかり。

 長老たちの目を欺く偽装かと思ってましたが、ここに来てもこんな調子ってことは、怠惰な生活が身に染み付いてしまってるのでしょう。


「さぁ弟子も来たし、こんどは池のほとりで昼寝すっかぁ」


 こきこき首を鳴らしながら、我が師が意気揚々と温室を出ようとすると――。


「大変です妃殿下ー!」 


 セバスちゃんという巨人の侍従が王宮からすっとんできて、恐ろしい形相で急を告げました。


「視察先で、陛下がお倒れになられました! 今王宮に運び込まれて――」


 トルが倒れた?!


 血相を変えた妃殿下の対応は速く、あっという間に我が師を押しのけて音速で王宮へと走り去りました。

 我が師はにやっとして、温室の戸口でわざとらしく手を振ってきました。


「うひょ。すげえ勢い。じゃあな弟子、俺も行くわ。ちゃんとトルの様子を見といてやるから安心しろ。おまえは時間までちゃんとそこで見張ってろよ」

 

 さっきの仕返しのつもりでしょうか。全く大人気(おとなげ)がないったら。

 トルのことが心配でたまらず、繭のそばでやきもきそわそわしていると。ダチョウ羽の風送り隊の二人が突然風を仰ぐのを止めて、僕の前に深々と頭を垂れてきました。


「もしよろしければ」「よろしければ」

「お見張りを交代いたしましょう」「交代いたしましょう」


 え。で、でも。


「どうかお任せくださいませ」「くださいませ」

 

 風送り隊は僕の心をくすぐる言葉を言上してきました。


「陛下はきっとあなた様に」「会われたがっておいででしょう」

「ご親友のあなた様に」「会われたがっておいででしょう」


 たぶん、そうだとは思うけども。……ってよくよく見れば、風送り隊のこの二人、口調だけでなく顔つきもどことなく似ているような。兄弟なんでしょうか。


「繭には結界が張られておりますゆえ」「少し席を外されても大丈夫かと」

「う……」


 気づけば僕は。風送り隊に後を託して王宮へ走っていました。

 連日外へ出て、砂埃にまみれて帰ってくるトル。大丈夫だと言ってましたがそれは方便。無理をしているのは、一目瞭然でしたから。

 トルの寝室の前には、心配する人々がたくさん集まっていました。我が師。兄弟子さま。フィリア。それからたくさんの侍従や侍女、廷臣たちにケイドーンの巨人たち。


「ついさっき目を覚まされたみたい」


 フィリアが駆け込んできた僕に囁いて教えてくれました。


「妃殿下がとてもホッとされていたわ」

「まさか、刺客に襲われたとかじゃないよね?」

「侍医の方がおっしゃるには、過労ですって」

 

 やっぱり……。

 建設現場などで働いてくるその疲れがたまりに溜まって、ついに決壊したのでしょう。


「弟子、繭の見張りどうしたの」


 我が師がにやにやしながらすり寄ってきました。


「ねえ、弟子ー?」


 うるさいです。衣の袖引っ張らないで下さいよ。


「まさかほっぽってきたわけ?」


 いいえ。風送り隊にちゃんと託してきたし、繭を囲む結界を三重にしてきましたよ。だからたぶん大丈夫ですってば。

 

――「無理をなさってはいけませんわ!」


 妃殿下の泣き声が寝室から聞こえてきました。


「お気持ちは解りますけど。こんなに毎日働きづめではお体が……」

「平気だよサクラコさん。みんなそこにいるんでしょ? 入れてあげて」


 トルは寝室の入り口にいる人々の気配を察して、僕らを招き入れて下さいました。侍従たちも、大臣たちも、巨人たちも、みな分け隔てなく。


「ごめんねみんな。心配してくれてありがとう。でも僕、大丈夫だから」

 

 トルは案の定砂埃だらけ。今日は特に重労働をしてきたのか、顔が泥でべったり汚れていました。

 妃殿下が優しく彼のかんばせを暖かい湯に浸した布で拭き取っておられました。トルは弱々しい表情でしかも顔がとても蒼白かったのですが、それでもにっこり微笑したので見舞った者たちはみなホッとしました。

 侍医が、最低三日は安静になさるようにと申し渡すと。妃殿下が、トルの好物の桃を果樹園からもいでくると言って席を外されました。

 僕らも長居はいけないと部屋から退出しようとすると――


「アスワド、しばらくここにいてくれる?」 


 僕だけ、引き止められました。体調が悪いので弱気になっているのかも。

 そう思い、僕はうなずいて寝台のそばに座り、差し出された手をそっと両手で包み込みました。


「トルのこと、みんな心配してる。無理をして体を壊したら元も子もないよ。加減しなきゃ」

「そうだよね。分かってはいるんだけど……でも動いてないと気が休まらなくて」

「トル……」

「半年前の内乱じゃなくて、六年前の革命の時に壊されたまんまの建物も、まだいっぱいあるんだ。最近そんなところから大量に遺体が出てきて。その人たちはみんな庶民だったけど……そこには絶対いないと解ってたけど……僕は必死で姉さんを探してた。もしかしたらとか、思ってた」  


 トルは深く息をつきました。


「重傷だよね」


 僕の心がしくしく痛みました。


「トル、やっぱり協力させて。僕、人探しの韻律を何種類か知ってる。お師匠様たちだって、絶対力を貸してくれる」

「ありがとう、でも君たちにはやるべきことが……」

「ヒアキントス様のことより、寺院のことより、今僕は、友達が心配でたまらない」

「……ごめん」

「ごめんって言うな。ともかくトルは休まなきゃだめだよ」


 トルは、「うん」とうなずくのですが、やはりどこか納得できない心の焦燥感があるのでしょう。体を伸ばしても落ち着かず、しきりにため息ばかりついていました。


「桃をたくさん持ってきましたわよ」

 

 ほどなく手にいっぱい桃色の果実を抱えた桃色甲冑の妃殿下が、寝室に戻ってこられました。ほわんと部屋に果実の甘い匂いが漂ってきます。僕の鼻にもその匂いが入ってきます。オリハルコンの服の効果がちゃんと効いているようです。


「本当にいい匂いだね」

「だろ? この品種は特にいい匂いなんだよ」


 トルは嬉しそうにすうっとその香りを吸い込みました。


「サクラコさんと出会った時のことを思い出すなぁ」 


 彼はそう言って明るく笑いました。その頬はほんのり赤く染まっていました。

 彼が抱きしめた桃のように。





 トルは僕と一緒に桃を齧りながら、サクラコさんとの出会いを懐かしそうに語ってくれました。

 懐かしそう――そう、トルが初めて未来の妃殿下と出会ったのは、なんと六歳の時だったというから驚きです。


「出会った場所は、たわわに実る桃がたくさん植わってる、とある小国の王宮だった」

  

 その国は代々女王が治める、とてもとても小さな国。

 トルは七つになるまで、その国の王宮に住んでいました。当時父王はまだメキドの王ではなく、継承順位が末席に近い王子。女王の妹である母君の婿として嫁いできて、一家は幸せに暮らしていたんだそうです。


「兄さま二人。姉さま一人。そして、僕。子供は四人。六人家族だった」


 ある時その小国の女王陛下はケイドーンの傭兵団を雇い入れ、隣国との小競り合いに早急に決着をつけました。むろん、大勝利で。

 ケイドーンの巨人は傭兵業を生業としている戦闘部族。

 スメルニアやエティアといった大国が会戦を行う際に必ず雇い入れ、後世の記録に残るようなめざましい戦功を山のように積み上げています。


『王族の間ではな、戦をする時は必ずケイドーンの巨人を雇うべし、という不文律があるぐらいじゃ』


 歴史と用兵の研究をされている長老メシオドス様が、歴史の講義の時にいつもそう仰っていましたっけ。


『巨人戦士一人で人間一千人分の兵力に値すると言われておってだな。まあ、雇おうとすればそれなりにとてつもなく費用がかかるが、結果をかんがみれば決して高くはないだろうの』


 一騎当千の巨人たちの力を借りて戦に勝利した女王は、雇った巨人たちをすべて招待し、王宮で凱旋の宴を開いたのですが……。


「桃の花が舞い散るところで和気藹々、宴が始まった。ところが僕の叔母は、そこでとんでもないことをしでかしたんだ」


 実はその小さな国は大変貧乏で、国庫はほとんど空。ゆえに傭兵団に報酬を支払えなかったのです。それを知った巨人たちが暴れることを恐れた女王は――なんと巨人たちの酒杯に毒を盛ったのでした。

 強靭な巨人たちとはいえ、体の内部を蝕む毒には無力。

 遅効性の毒でじわじわ体を蝕まれ、七転八倒。あわや傭兵団は全滅か? と思われたその時。


『こんなことしちゃだめだ!』


 幼いトルナートはそう叫んで姉と一緒に王宮を抜け出し、毒消しの薬草を王宮の裏手にある山から採ってきて、苦しむ巨人たちを必死に治療しました。

 姉弟は母君から教えられていたのでした。山に自生するとある特殊な草が、その国で良く使われる毒の特効薬だと。

 幼い姉弟の看病でみるみる回復した巨人たちは、女王をしめあげて国外追放にし、その国の民に新しい女王を選ばせました。

 一番にトルの姉が女王に推されましたが、姉はまだ年若いので自ら無理だと言って辞退。次点であったトルの母君も固辞。

 結局、さらに次点であった方――母君の妹でとても温厚な方が国を継がれて、巨人たちに陳謝し、時間はかかるが報酬をきっちり支払うと誓約したそうです。


「つまり、トルとそのお姉さんは、妃殿下たちの命の恩人、というわけか」

「そうですの。お二人とも本当に小さな子供でしたのに、苦しんでいる私たちを見て、いてもたっていられなくなって……それで二人きりで山へ入っていって、薬草採りに奔走してくださいましたの。私、嬉しくて胸がつぶれましたわ。あの時から私は、ひそかに陛下のことを……」  


 妃殿下はポッと染めた頬を大きな両手で包み込み、腰をふりふりされました。

 サクラコさんは巨人と人間との混血で、当時十四歳。すでに立派な戦士としていくつか戦功をあげていました。ケイドーンの巨人族の血は早熟で、十歳になればもう体が出来上がり、前線に出られるんだとか。 


「そしていつか再会しましょうと、私と幼い陛下は桃の木の下で誓い合ったんですのよ。指きりげんまんで」


 そんなめでたしで終わった出来事から数ヶ月もしないうちに、トルの父君はメキドの大貴族たちから「王」に推され、メキドの王宮へ迎え入れられたのでした。


「ということは、二人は六年後に再会したってこと?」

「そうだよアスワド。僕が寺院からメキドへ戻る途中で偶然、旅籠で一緒になった。サクラコさんは丁度雇い主との契約が切れたところで、故郷に帰ろうとしているところだった」

 

 再会を喜び合った二人は意気投合。というか、未来の妃殿下がこれから王になろうというトルに、ぜひ護衛させてくれてくれと申し出たそうです。

 トルはこうして、僕への手紙に書いてきたような過酷な状況に臨んだのでした。

 まごうことなき戦女神を引き連れて。





 トルは休み休み、寺院から帰国した後のことも教えてくれました。


「幼かった僕は帰国するまで、なぜ父様がメキドの王になったか、そしてなぜ殺されたか知らなかった。実はこのメキドは……古の昔から、互いに相争う二つの名家に牛耳られていたんだ。二つの家は絶えず権力闘争していて、奴らが互いに王をとっかえひっかえしていたんだよ。パルト将軍は、その一方の家の当主。もう一方のライバル当主が僕の父さんを王にしたのが気に入らなくて、革命と称して大規模な叛乱を起こしたらしい」


 パルト将軍は数百年続いた権力闘争の「均衡」を破り、王家ともう一方の名家を根絶やしにして、自身の家を「真の王家」にしようとした――というのが、六年前の革命の真相だそうです。国民に議席をもたせようとか、奴隷を廃止しようとか、世のため人のためになるような理想や理念など、これっぽっちもなかったのです。

 そんな将軍に叛旗を翻した貴族たちは、新たに国を牛耳る大貴族になろうとして将軍を倒し。バルバトス様を後見に仰ぎ。トルを傀儡の王に仕立てるよう画策したのでした。

 

「陛下は玉座に座っているだけでよろしい! って、面と向かって大臣に怒鳴られた時はかなり傷ついたな。サクラコさんはそんな状況を僕のそばで見ていて、怒り狂って泣いてくれた。そして君からの手紙を一緒に見て……僕を救うために、立ち上がってくれた。故郷から親族を呼んでくれたんだよ。ケイドーンの傭兵団のみんなを、僕のために」

 

 トルはとても嬉しそうに桃を頬張りました。

 

「報酬は払えるかどうか解りませんって傭兵団長に言ったら、もう前払いで貰ってるって言われた。六年前に僕がみんなの命を助けたこと。それが、報酬だって」


 桃色の妃殿下が、うっとりとトルを見つめながら仰いました。


「ケイドーンは恩義を忘れません。ましてや、陛下は私たちに命を下さったんですもの。お仕えするのは当然ですわ」


 トルが起死回生の大逆転を果たした、あの毒薬暴露事件。

 実はあれは、とある異国の姫との婚約式の時に起こしたんだとトルは苦笑しました。


「名目だけの婚約式でね。相手の王女は連れてこられてなかったのが幸いだった」


 メキドの貴族の称号を持つ者たちがすべて集まった大広間。そこでトルは広間の出入り口をケイドーンの傭兵たちに封鎖させ、一番偉い大臣にバルバトス様から下された薬を飲むよう命じました。


「我が師はあの毒薬をメニスの『長寿の秘薬』だって触れ込みで送って寄こした。王家はメニスを庇護するべしって法があるのにね。だから僕はもったいぶって固辞して、君が僕を呼び戻してくれた、君こそ不老不死になるべきだってニコニコして大臣に言ってやった。僕の両脇にサクラコさんと傭兵団長を並べた状態で薬を飲むように命じたら、大臣はいきなり土下座してきた。それからは、申し訳ありませんお許しください、あなた様に忠誠を誓いますの大合唱だった」


 無理もないことです。一騎当千の巨人たちに完全包囲されて、貴族たちは逃げることが叶わなかったのですから。

 薬のカラクリを知っていた大貴族たちはみるまに蒼くなり、謀略を全く知らぬ地方貴族たちは、あまりの展開にびっくり仰天していたんだとか。

 その場で正式に権威の杓杖と宝玉を譲り受けてメキドの施政権を掌中にしたトルは、さっそく異国の王女との縁組を破棄し。バルバトス様を後見から外すことを発表し。それから毒薬を飲むことを勧めてきた貴族たちを追放して。

 そして――


「最後に僕は、サクラコさんとの婚約を発表した。式は一週間後に二人で神殿に行って、つつましく挙げた。でもいつか……」


 トルははにかみながら、頬を人差し指で搔きました。


「いつか、桃色の花嫁衣裳だけは、着せてあげたいかな、と――」

「へ、陛下ったら、もう、そんな。そんなことなさらなくてよろしいのに」

「しなくてよろしくないよ。ぜ、絶対、いつか着せるからねっ」


 顔を真っ赤にされる妃殿下が、なんだかとても可愛いと思ったのは僕だけではなく。トルもきっと僕以上にそう思っているでしょう。

 

「でも、貴族たちを無理やり恭順させるなんて、かなり強引なやり方だったと思う。だから僕はこれから一所懸命よい政をして、皆からの心からの支持を得なければならないと思ってる。がんばらないとね」


 トルはにっこりして、僕の肩をぎゅっと抱きしめてきました。


「導師のお二人から詳しくお話を伺った。我が師を倒してくれて本当にありがとう。僕らは、真の戦友だ」

 

 僕は目を潤ませてトルを抱きしめ返しました。

 トルにはとても敵わないと思いました。

 自分を廃人にするよう命じたバルバトス様のことを、トルはまだちゃんと『我が師』と呼ぶのです。

 しかも王なのに自分のことを「朕」とは称さず、「朕と君」とは決して言わず、「僕ら」と言ってくれるのです。

 三千年の歴史を持つ、大国メキドの国主なのに。

 メディキウムのリンがかつてトルのことを評した言葉を、僕は思い出しました。


『まごうことなく、彼は王者です』

 

 確かに。間違いなくそうだと思いました。

 トルの身に降りかかった、想像を絶する哀しみと苦難。

 それを完全に癒して、消してしまうことができたらいいのに……。

 桃を食べ終わったトルはそれから数時間、うとうとしたり僕らと話したりしました。

 トルがまどろんでいる間、妃殿下は何度も何度も僕にお礼を言いました。

 寺院でトルと仲良くしてくれてありがとうと。

 僕も妃殿下に何度も頭を下げました。

 トルを守ってくれてありがとうと。 

 親友が安心した顔で深い眠りに落ちたのを見計らって、僕はしのび足で部屋から退出しました。

 繭の様子を見に戻ろうと回廊を歩き出したその時――。


「ぁぁぁぁああああああああああ!」


 回廊のはるか向こうから、侍従のセバスちゃんが、すっ飛んできました。

 恐ろしい叫び声をあげて。


「大変です、陛下! 妃殿下! 導師の弟子さまぁああああ!」


 目をひんむいたような鬼気迫るその顔に、僕はたじろぎました。

 瞬く間にやって来たセバスちゃんは僕の腕を掴んで、叫びました。


「繭が、割られました! 不埒者の手で!」


 耳を疑うその言葉に――


「割られてしまいました!!」


 僕の体は凍りつきました。一瞬で。


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