表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アスパシオンの弟子(コンリ版)  作者: 深海
番外編・聖剣さまの勲歌
103/104

ほむらちゃんと私  第2話 (主人持ち剣の矜持とは。)

赤猫剣番外編続きです。

 0101010101010101010101010101010101010101


 ふう。おやつをくらったおかげで、01周波数発信可能になりました。

 お腹が空くとなにもできなくなるんですよね、私。

 この仕様はかなり不便です。

 ソート様の手下のピピのところに戻ったら、ぜひそこらへんを改善してほしいと訴えることにしましょう。

 バックアップ情報体からメインシステム情報体へ思考作業を移行。

 電導範囲を赤鋼玉限定から全身に拡大。 

 周囲に風属性波動「おおなぎ」出力。

 よし、浮力発生しましたね。

 同時に反重力波放出。

 足などなくとも……我が身はふわり。

 ふふふふ、浮きましたよ。

 百の機能(ヘカトンガジェット)をもつ私、ないものは所有機能で補いますともっ! なにせ776回も機能更新されてますからねえ。ふふふふ。

 即刻、ここから退避しましょう。

 ここは危険です。危険度赤ランプです。

 攻撃を受けて今にもつぶれそうですからね。

 盾兄弟、では、ごきげんよう。

 これ以上、御身たちが離されないことを祈ります。アーメン。


『ラーメン?』『なんですかその呪言は』


 おっと。ようやく反応が返ってきましたよ。

 ラーメンじゃなくてアーメンです。

 英国紳士は、敬虔なクリスチャンなのです。

 アーメンは、キリスト教という宗教の祈りの言葉でしてね。青の三の星では何億人と信者がいる一大宗教でした。

 私、二代目の我が主と一緒に洗礼受けましたよ。

 では盾兄弟、失礼いたします。どうかお元気で。





 こうして広刃の美しい剣である私が、我が刀身が打ち出しました風に乗ってふうわりふうわり外に出ますと。

 そこはどうやら、神殿であるようでした。

 時は黄昏でありましょうか、あたりは薄暗く視界はかなり不良。

 木組みの合掌造りの荘厳なる建物がどん、と目の前に広がっており、そこが本殿であるのは一目瞭然。社務所やら私がおりました倉庫やらが、両翼に並んでおります。

 何の神を奉っているのでしょうか、正面の本殿を見あげてみますれば表象がついておらず、太陽でも月でも星でもない様子。スメルニアはこの三柱が公認の神とされているのですが、この神殿が奉っているのは公認ではないもののようです。

 よもや異端でありましょうか?

 弾圧などされる憂き目にあったのでしょうか?

 境内には――

 おっとこれは……なんとも恐ろしい光景が繰り広げられているではありませんか。

 象牙の杖を掲げる、あの蒼い髪の美少女が、孤軍奮闘?

 ひとり果敢に立ち構えるその周囲には、すでに累々たる骸の山。

 攻めてきた者の骸はひとつもなく、犠牲者はすべて、この神殿にいた者たちのようです。みれば年配の男性ばかり。

 あ、味方らしき神官服の者がひとり、境内から逃げようとしています。

 あら?

 え?

 ちょっと、待って!

 なんと、神殿の者らしきその逃亡者を、象牙の杖持つ少女がびびっと韻律で攻撃したではありませんか。

 少女が何か叫んでおりますが、これはスメルニア語ですね。

 翻訳機能、起動!

 

「おのれ逃げやるな! この期に及んで背信するとは!」


 最後まで戦わぬ奴には天誅を、なのでしょうか?


「そこな軍勢、なにをしておる! 太陽神に、はようわが身を捧げよ!」

 

 なんですと? 早く殺せ、と呼びかけているのですか?

 捧げよ、とは面妖な。

 攻めてきたのはスメルニアの正規軍のよう。

 光り輝く銀甲冑に刻まれたるは太陽紋。太陽神の御姿を描いた御旗が、軍勢の中でいく本もはためいております。

 少女がひとり生き残っていますのは、彼女が杖で防御結界を張っているわけではなく……


『ご主人さま! ご退避を!』


 真っ赤な刀身のほむらさんが、少女のまん前でふんばっているからでした。

 その刀身と同じ色合いで放射されている熱い波動のおかげで、軍勢が少女に近づけないでいるのです。

 なかなかに強力な炎属性の波動。ほむらさんの思念の強さも出力に比例しているのでしょうか。

 とある兵士がえいと槍を投げましたが、とたんにほむらさんから赤い閃光がほとばしり、くろがねの武器をじょわっと溶解。

 なんという熱量。竜の鱗もとろかしそうです。

 まさに、かがやくほむらのりゅうごろし。

 これではさすがの私も近づけません。

 そしてドーナツ状に渦巻く赤き波動の中心、安全地帯の中にいる少女は――


「そこな剣! どきやれ! 太陽神の軍勢が我を攻撃できぬっ」


 困り果てているようです。


『ですがあたしがどいたら、ご主人さまが串刺しになってしまいますっ』

「それこそわが努め! 最後に象牙の杖持ちたる死の神の巫女、この我があやめられれば、この儀は完了する。殉教こそ、最高の誉れぞ」

『なにをおっしゃいます、いけません!』

「ええい剣、いいからそこをどけ! 我はいけにえ、ここで太陽神に捧げられ、死の誉れを受けるのじゃ!」


 少女は剣をどけようと、いらいらと韻律を唱えて杖を振りました。

 しかしその音波波動はほむらさんの炎の波動にかき消され、あとかたもなく消失。

 この儀、とはまたまた面妖な。

 つまりこの境内での惨事は……。


――「なにを滞っておるのだ!」


 そのとき。

 太陽紋の軍勢の奥から、黒衣の将官がずいと先頭に現れて、いらいらと叫びました。


「そこないけにえ! 死の神の巫女よ、なぜに抵抗する! 儀式が終わらぬではないかっ」

「も、もうしわけございません! しかしこの剣は我のものではなく、勝手に出ばってきやったのです」


『なにをおっしゃいます! 主人をお守りしないでなんとしましょうや!』


「――このように申して、勝手に我を主人とみなし、守ろうとしておるのでございます!」


 つ、つまりほむらさんは、この美少女を勝手に主人認定していると?

 そして美少女は本日、「儀式」によって殺される運命にあると?

 巫女の少女が訴えますと、周りの兵士たちも口々にそうですそうですと同調いたしました。

 しかしいけにえの儀式とは、一体……


「古式にのっとり、死の神の信徒を太陽神が駆逐して蝕の闇を祓う。その神聖なる戦を再現する儀式において、かくなる不祥事! 前代未聞なるぞ!」


 黒衣の将官は怒り心頭。

 なるほど、模擬戦闘の形でいけにえを殺すのですね。

 蝕の儀式ということは、この天の黄昏は……ああ、日食ですか。

 太陽を主神と崇めるスメルニア、太陽が隠れるのは一大事。

 命のともし火を天に送って、隠れた太陽神を取り戻す――というのが儀式の概要なのでしょう。

 しかし境内に折り重なるいけにえの数。ひとりやふたりじゃありませんよ。

 それに武器庫らしき倉庫まで破壊するなんて、模擬といえるレベルではないような。実戦と変わらないじゃないですか。

 ああでも、少女は逃げようとした味方を倒しておりましたね……。

 いけにえになりたくない者を誅した、ということですか。

 なんて原始的でおそろしき儀式なのでしょう。

 スメルニアでは「いけにえ」が当然のように儀式化されてるって話ですが、これほどとは!

  

「もうしわけございませぬ! ですがこの神殿に入れられ、いけにえの巫女となりて五年、この蝕の儀が行われ華々しく死に臨むのを、我は心待ちにしておりました! それは一片の嘘いつわりもなく、我の宿願にございます!」


 まっすぐなまなざしの蒼い髪の少女が、必死に弁明するまん前で。


『いけません! そんなのいけません! 死ぬなんて!』

 

 ほむらさんは必死にふんばっていました。

 おのれが主人と認めた少女を、死なせまいとして。

 

『ほ、ほむらさん。あの……』


 私は真っ赤な刀身が放つ波動の向こうから、ふんばる剣におそるおそる声をかけました。 


『そのお嬢さん困ってますよ? 彼女は、自ら進んでいけにえになりたいのでは?』

『なにをいうのエクスちゃん! そんな運命に甘んじる生き物がこの世にいるなんて、ありえないわっ。生き物なればすべからく、生存本能を持っているものよ。ご主人さまは内心生きたがってる。無理をしてるにちがいないわ!』


 でも。でも。メニスはわかりませんが、人間というものはですね。

 信じるもののためには、命を賭すことができるのですよ。

 それがはたからは理不尽で間違ったものに見えようと、本人にとっては、まごうことなき真実。

 本当に納得して、満足して、結果を――運命を、受け入れるのです。 

 ですから――


『いやよ!』 


 ほむらさんは取り乱して叫びました。


『いやよ! いや! あたし、もう失いたくないの! ご主人さまを目の前で失うなんて、そんなのもういや!!』

 

 ぱうん、と美しい炎の光輪が真紅の刃から放たれて。

 少女を遠巻きに取り囲む兵士たちをさらに押し退かせました。

 ほむらさん! だ、だめですよ! 

 正式に契約していないのでは……その方をご主人さまと呼ぶことすら、許されませんのに。

 見て下さいよ、少女の顔を。泣いてますよ! 


『なんですって?』


 泣いてます。

 せっかくここで華々しい最期を、人生のクライマックスを迎えようというのに。ほむらさん、少女は無残にも、あなたに邪魔されてしまったのです。

 彼女にとっては、これは大好きな恋人と結ばれて結婚することと同義。

 いや、きっとそれ以上に価値あるもの。

 彼女の人生における、一番の一大イベント。

 だから……

 邪魔してはいけません。

 止めてはいけません。

 それでたとえ、彼女がこの世からいなくなるとしても――


『主人が目の前で死ぬのを見守る? そんなことできない!』

 

 ほむらさんは金切り声をあげました。

 

『主人持ち剣のくせに、ご主人さまを見殺しにするなんて! そんなこともう二度と! あたしはもう二度とごめんなのよ!』


 いいえ。いいえ。たとえその少女が契約をなした主人であったとしても。

 主人の望みを叶えてさしあげるのが、我が使命。

 私はそう心得ております。

 むろん間違った事、悪しき事に陥りし時はお諌めし、正道に戻すのもわれらが努めでありましょう。

 ですが。

 かなしいことですが、これは。この儀式は。

 スメルニアにおいては、正義。

 蒼き髪の少女の、にごりのない澄んだ瞳をごらんなさい。

 りんりんとはなたれる迷いなき信念の精神波を、感じてごらんなさい。

 一遍の曇りもない、芯の通った美しい波動を。

 ほむらさん。あなたにはつらい過去がおありになるようですが、ご自分の記憶を、望みを、ご主人さまにおしつけてはいけません。

 あなたは、ご主人さまを止めてはなりません。

 真実、この少女を主人とするならば。


『いやよ!! いや!! 死なせたくないの! 死なせたくない! 

 ご主人さまはあたしをひろってくださった。 きれいにきれいに磨いて下さった。汚く錆びたあたしをこんなにぴかぴかにしてくださった。深く深く、愛でてくださったの』

「け、剣……それは、打ち捨てられておったうぬを、不憫に思うて……」


 少女がおろおろと杖をおろし、剣に近づきました。いまや泣き声のほむらさんは、ふわんふわんとやわらかな光輪をたえず放っておりました。 


『こんなお優しい方をこの世からなくしてしまうなんて、あたしは、絶対いや!!』



 ああ……ほむらさんはこの少女に……

 蒼い髪のこの少女に、恋をしてしまったのでしょう。

 優しくしてくれたこの娘に。

 それに過去の記憶もだいぶひきずっているようです。

 もしかしたら主人を失ったことで、ひどい境遇に落とされたのかもしれません。

 打ち捨てられていたとは、なんとも辛いことです。

 しかし主人の意志を無視しておのが欲求を通そうとするとは、主人持ち剣にとっては致命的な欠陥。

 もしかしてもう、ほむらさんは古すぎてこわれていらっしゃるのでは……

 五万歳、でしたよね。主人百人。

 人間の主人はみんな女性――う、うらやま……

 ととと、ともかく!

 ほむらさんがこのまま少女の邪魔立てをしてしまえば、主人持ち剣としては失格です。

 五万年もの寿命を誇る名剣の名声が、このような不祥事で地に落ちてしまうとは。同じ人工精霊剣として、それは心痛い限りです。見ていられません。

 耐え難きこの状況を打破するには。

 ふむ。

 それでは。それでは。

 こういたしましょう――!

  


 百の機能(ヘカトンガジェット)起動!


  

010101010101010101010101010101010101010101

 

 私はわが脳味噌たる赤き鋼玉を煌めかせ、木造の本殿に向かって紅い光を照射しました。

 刹那。

 我が身からほとばしった光は、立体的な映像となり。

 たちまち、神々しくも美しい、光り輝く幻像がそこにたち現れました。

 それはきらきらと黄金色に光る、ある神の姿。

 

 とたんに、スメルニアの兵士たちからどよめきがあがりました。

 黒衣の将官も少女も、目をみはって本殿の方を振りむいています。


「ななななんだあれは」「なんという光量!」

「なんと神々しい」「ま、まぶしいぞ」

「なんじゃこれは……!」


 そう。この神こそはスメルニアの主神。

 輝ける陽の君。


 太陽神オオミカミノアメテラス――。


 私はひゅんひゅんと刀身をうならせ、幻を照射し続けました。

 そしてどうかうまくいきますようにと祈りながら、巨大版メルドルークの美しい声音を我が身から発したのでした。

 威厳あるように。

 威圧するように。

 だれもが、ひれふすように。




『そこな少女よ、死して我のもとへ来たいと望むはそなたか?』









大団円なるか。

次回でおそらく終わります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ