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アスパシオンの弟子(コンリ版)  作者: 深海
番外編・聖剣さまの勲歌
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ほむらちゃんと私  第1話 (宿敵登場?!)

本編でぺぺたちとはぐれてしまった赤猫剣。

あれからどうなったのかの後日談です。


赤猫剣の一人称、すなわち「とある宝物庫の剣のつぶやき」でおなじみの、

「聖剣様のいつもの語り口調」でお送りします。



 (今回は、はぐれちゃった赤猫剣視点のお話です)




 ……こんばんは。

 って今、夜? 昼? 解りません私。

 とりあえず、あたりがまっ暗いのでそう挨拶いたします。

 あら、お返事がありませんね。

 この方、喋れないのかしら。

 人間の顔が描いてあるので、お話しできるかとおもったんです。

 これって、盾ですよね。銀色で円くてぴかぴか光ってて男前。

 目のところに宝石がふたつも嵌ってますし、人工精霊のひとつやふたつ突っ込まれてても、不思議じゃないと思うのですけど。

 しかしほんと、ここどこなんでしょうねえ。

 まっくらで皆目わかりません。

 あ、えっと、私、剣でございます。

 大鍛冶師ソートアイガスとその手下のピピという、二人の極悪灰色導師に改造されてしまいまして。なんだか気分が変なことになっております。

 ここ数年ピピにこきつかわれておりましたが、つい最近、メニスの里で赤毛のおねえさまたちに託されました。

 おねえさまたちはソートアイガスの娘さんたちで、大変かわいらしいのです。

 ですので私、おねえさまたちを守るべくがんばっていたのですけど。残念ながら、はぐれてしまいました。

 おねえさまたちがメニスの子と一緒に、こわいメニスたちから逃げたものですから、ちょっとお手伝いしたのです。ところが出力出しすぎちゃって、目を回して気絶してしまったんです。

 そうして目覚めたら――ここですよ。

 なんか狭そうな、倉庫。

 広刃の美しい剣である私の向かいには、男前の銀の盾。

 私の右隣には、美人な象牙の杖。

 そして私の左隣には……


『エクスちゃん、頭かゆーい。かいてえ』

 

 プラチナの柄は鳳凰の象嵌。淡い緑の金剛石の人工精霊。刀身真っ赤で竜の模様。


『ねえー、とさかのところがかゆくってさあ。特別にさわらせてあげるからかいてよお』

 

 ちっ。なんなのこいつ。見目はそこそこですけど、私より性能悪そうな剣ですね。

 出身どこですか? 青の三の星じゃないですよね、あなた。


『生まれた場所? あー、たしか紫の四の星?』


 なんですかそこ。きいたことないです私。


『海も湖もあまーいところよ。そこじゃ生き物の血がみんな砂糖みたいに甘いのよね』


 え。血が甘い? それって甘露を出すメニスのことじゃないですか。

 まさかあなた、五塩基生物が生息する星から来たっていうんですか?


『ごえんき? なんかしらないけど、メニスって呼ばれてるやつらがあたしをつくったみたい。生まれた時の事はあんまりおぼえてないのよねえ。メニスたちと一緒に、この星までどんぶらこっこしてきたのはよくおぼえてるけど』


 一人称が女性形。てことは婦女子ですか?


『ふじょし? ああ、ここの星のやからはなんか、性別っていうのがあるみたいね。あたし女じゃないわよ』


 え。まさかおかま?


『なにそれ~。エクスちゃんたら、ときどきあたしの辞書にない単語使うわねえ』

 

 ああ、そういえばメニスは性別がないんでしたね。ジェンダーの概念はないって聞いてます。

 攻めと受けはあるみたいですけど。

 お名前を伺ってませんでしたけど、メニスの間ではあなた有名だったんですか? 

 もちろん雷球ぐらい繰り出せますよねえ? いやいや、かまいたちとかは無理でしょうけど。

 ちらっ。ちらっ。


『雷なんて、ぶっそうねえ。あたし最近レギスバルドって呼ばれてるわね。他にも百個ぐらい御主人様たちから名前をもらったけど、一番のおきにいりは、かがやくほむらのりゅうごろし、かしら』


 なまえ百個? 主人百人? なんなのこの尻軽。

 私なんか一万一千歳すぎましたけど、主人はまだ二十三人しか娶ってませんよ。 

 ふたつ名だって十個ぐらいしか……

 あの、おいくつ? そのぴかぴか具合からしたら、一万年はいってませんよねえ?


『んー? たしか今年で五万と二百五十歳? でも私めんくいだから、御主人様はまだ百人ぽっきりなのよねえ。メニスのご主人さまが大半だったけどお、ここ最近は人間もちらほら主人になってるわよ。金髪の修道女とか、かわいらしい女王様とかいたわね。最近は巨乳の女将軍とか?』


 きょにゅう……。

 ってみんな女性?! なにそれ……ごくっ。う、うらやましい。


『ほらあたしって高性能だから? 身づくろいも自分でできちゃうのよね』


 え。なにそれ。

 柄の根元から、白くて細い、先がそれぞれ五本の指に分かれたようなものがしゅるしゅるって……

 まさかそれ……手?! 手なの?! 手なんですか?!


『え? 手にきまってるじゃない』


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ええええええええっ?!

 ああ……ああ……! 細い手が柄の鳥さんの頭かいてるううう!!

 

『でもね、人にやってもらうっていうのが、嬉しくて素敵なことじゃない? だからエクスちゃん、こんなふうに頭かいてよ。え? うそ、まさか手がないの? うそお! 喋れるくせに手がないのお? もしかして、足もないわけ?』


 え……ふ、ふつう、け、剣にはないでしょう?


『ええーっ? メニスが作る剣には、みんな手足ついてるわよお? やだあ、エクスちゃん信じらんない~。人工精霊剣なのに、手足ないなんてー』


 ひっ。剣先からほそい足がにょきっ?! マジ?!

 まさかそれ、足?! 足なの?! 足なんですか?!


『足にきまってるじゃない~』


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


『足がなかったらご主人さまのもとに走っていけないじゃないの。まさかご主人さまにご足労をかけるなんて、とってもはずかしいことだわよ、エクスちゃん。手足装備は主人持ち剣のデフォよ?』


 で……ふぉ……!?

 あああああああああああっ!

 なんで手がないのでしょう私。

 なんで足がないのでしょう私。

 つ、作った人! ちょっと! 作った人どこ! 文句言わせて!

 あ。ああ……そういえば。

 喰っちゃってました。腹いせに。

 忘れてました。だいぶ昔の、ことなので。

 一万一千年前……。

 いちまん……。あっちはごまん……。

 一万年って、まだ、だいぶ昔じゃないのかも。

 まだまだ我が身はぺーぺーだということを、本日思い知った私です。

 



 さて、美しい広刃の剣たるこの私、通称戦神の剣、フランベルジュ・デ・ルージュことエクスカリヴルヌス・ノヴァ・ヘヴェス・ウェルシオン・トリブス・バージョン776は、ピピという名の灰色の導師が居る塔にもどりたかったのでありますが。

 この狭い倉庫を訪れる人は、それからざっと三百時間ほどございませんでした。

 その間、私の位置は一ミリも変わらず。

 向かい側には男前の銀の盾。

 右隣には美人な象牙の杖。

 そして左隣には――

 ……。

 ……。

 あら、いませんね。ああ、そういえばあの方、歩けるんですよね。手もありますし。

 じとっ。じとっ。

 

『エクスちゃん、なんでそんな鬱々とした波紋波動放ってるの? あたしはここよぉ』


 ああ、そこにいましたかレギスバルトさん。


『ほむらちゃんって呼んでっていったでしょ。ぶすくれちゃって、あたしが定位置にいないんで不安になっちゃったの? やだぁかわいい!』

 

 あのう、私の真上で懸垂してるとか、いったいなんの冗談ですか。


『ちょうどここに梁が通ってるのよ。だからね、腕の力がなまらないように鍛えてるの』 

 

 ああ、その細っこい手を鍛えてるんですか。

 手……。

 ううう。じとっ。じとっ。

 

『そうよぉ。御主人様がもし攻撃の衝撃で私を手放しちゃっても、私がしっかりつかんでおけば、離れ離れにならないでしょう?』


 ああ、そうですね。ご主人さまから決して離れないようにするのが、そのために手を標準装備しておくのが、主人持ち剣のデフォですよね。

 わかってます。わかってますとも。

 でも真上でやるのはやめてくださいませんか?

 私落ち着きません。いつ降ってこられて突かれるかと、気が気じゃございません。

 そう申しますとレギス――えっと、ほむらさんは、私はそんなへまはしない、なにせ握力は500キロあるのだと仰いまして、えんえん私の頭上で懸垂しておりました。

 私がいらっ、いらっ、としておりましたところ。そこでようやく、倉庫らしきこの場所の扉らしきものが開いたのでございます。

 中に入ってきたのはなんとまあ、目も覚めるような蒼い髪の美少女。


『ご主人さま!』


 ほむらさんはその少女が入ってくるなりそう叫び、すとんと床に着地。すたたたたと自慢の足を駆使しまして、美少女のそばへとかけ寄りました。 


『ご主人さま、ご主人さま、ご出陣ですか?』

 

 自慢の手をわきゅわきゅ動かして、今にも美少女の腕にすがりつきそうなほむらさん。

 しかし蒼い髪の少女は、そんなほむらさんに一瞬びくっと引いただけ。

 無言で、私の右隣にある美しい象牙の杖を手にとりました。


『ご主人さま、あたしがいれば、韻律など毛ほども必要ありませんわ』


 ほむらさんは食い下がりましたが、美少女は杖だけもって倉庫から出ていきました。

 

『ご主人さま……』

 

 私の左隣にもどってきたほむらさんは、がっくり意気消沈。

 外からはすぐに、なにやら喧騒が聞こえてまいりました。どうやら戦ごとが始まったよう。

 ここはどこかの屋敷の武器倉庫、そして敵襲を受けたのでしょう。

 大いなる魔法の気配がびんびんと、倉庫の壁を震わせています。

 少女のあの蒼い髪。身ごろを前で重ねるような衣服。あれはスメルニア系の血筋でしょうか。

 私が赤毛のおねえさまたちとはぐれたところは、たしか北五州。

 あそこからスメルニアの大皇国は、はるか東。山脈を越えねばなりません。

 私、はるばる皇国まで運ばれてきたんでしょうか? 

 一体誰に拾われたんでしょう?

 倉庫の外壁がぶるぶる震えています。

 杖を持っていった少女は屋敷やここに結界を張ったのでしょうが、それが脅かされているのです。

 結界ごと、激しく揺さぶられています。

 外で繰り広げられているのはおそらく、韻律の応酬。

 攻める力。抗う力。

 そのどちらとも、黒の寺院の神聖語による韻律とは音波系統が少々違うようです。 

 黒き衣のダンタルフィタスのように、寺院で技を修めたものが使う正統なものではなく。

 荒削りなところがあるといいますか、亜流といいますか……

 

『ああ、ご主人さま……! あたしを使えばいいのに!』


 ほむらさんはいらいらと地団駄をふんでおりましたが。

 ぼん、と倉庫の壁に穴があいたその時。


『ご主人さまああ!』


 血相を変え――すなわち真っ赤な刀身をまっ白にして、すたたたと自慢の足で外へ駆けていきました。

 わ、私も自分で動きたいのはやまやまなのですが。せめてこの倉庫に防御波動をはって、身の安全をはかりたいところなのですが。

 おなかが空きすぎていて、思うように力が出ません。

 なんとか念動の波動で我が身を動かそうとしておりますと、あいた壁からぎゅん、と光弾が飛んでまいりました。

 ひい! 

 脇をかすった光の玉は、私の向かいの銀の盾に直撃。

 あああ! なんてこと。びきびきと盾が割れてしまいました。ままま、まっぷたつに。

 すると、二つにわかれた盾の男前な顔の目が、かかっと煌めき。


『ななな?』『あら?』


 二つの声が宝石の目のそれぞれから聞こえてまいりました。


『大変だ。はなれたぞ弟よ』『に、兄さまどうしましょう』


 なんだこの盾、喋れるじゃないですか。 

 もとい。

 顔の両眼に嵌まっていた宝石に、ひとつずつ人工精霊が宿っているようです。


『なんてことだ、われらの世界が』『兄様、これじゃラブラブできません!』 


 二つの宝石からきこえてくるのは、すすり泣き。

 あー。つまり。二人の世界に浸りこんでて、周囲はガン無視してたってことでしょうか。

 私の挨拶がきこえないぐらい相手に陶酔するとは。まったくもう、失礼ですよもう。

 銀の盾が左右に分かれて倒れたとき。

 その大きな物音に驚いたのか、さささ、とその陰からでてきたものがありました。

 これは……!

 私はとっさにわが柄の赤鋼玉を煌めかせ、そやつの生気を吸い込みました。

 ちいさくて。真っ黒で。音速で物陰へと逃げようとするそやつを。

 そう、しのぎのおやつに最適この上ない、この世で一番しぶとい生命力をもつ……


 Gを。



 

 

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