オルタナ
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私は、彼が死んだ時用の予防線だ。もっとも、彼が死ぬようなことが起これば私など何の役にも立たない。だから、私は代替品であり欠陥品なのだ。
そして、彼は、消耗品だ。
「おはよう、オルタナ。今日も空が赤いね」
私が部屋にこもったままでいると、彼が朝食を持ってやって来た。四分の一ほどのパンと脱脂粉乳が並べてあり、その横には乾燥肉が置いてある。
「おはよう、ジル。……駐屯地の襲撃、ついに明日なのね」
私の言葉に、ジルは大きく頷いた。
近頃目立ち始めた軍の財の私物化に、私とジルは苦しめられていた。そんな中、反政府組織であるアドリビトゥムは、私達の町を解放してくれたのだ。
「心配ないよ。僕らがやっていることは正しいんだ。だって、僕らはアドリビトゥム——自由のために戦ってるんだから」
今、私は、守る側の人間になった。
守る彼を、補強するための“モノ”なった。
「けれど、正義があっても命がなければ意味がないわ」
正義で空腹は満たせないし、自由で紛争は無くならない。そんなこと、ジルだって分かっているはずだ。しかし、彼は寂しそうに首を横に振る。
「じゃあ、僕が死んだら君の中に僕って存在は欠片も残らないのか?」
彼は、そう言って部屋を出た。私は呆然として何も言えなかった。その日は、もう彼と話すことも、顔を見ることさえなかった。
そして、それが最後になった。
「ジルは本当によくやってくれた。おかげで作戦は大成功だったよ。世界はまた良い方に近づいた。これもまた、尊い犠牲だ!」
尊くない命なんてない。
尊い犠牲なんてない。
例え他がそうでも、ジルだけは違う。
「——ッ」
私は踵を返して駆け出す。ジルの死を尊いだなんて言う奴らと一緒にいたくなかった。私は急いでカタパルトに仕掛けをし、MS.406に乗り込む。かつてジルが使っていた機体だ。私が乗っても問題ないだろう。
私は、彼の代替品なのだから。
「MS.406、オルタナ——いきます」
射出の瞬間、かなりの重力が私を襲う。私は必死に体勢を整え、なんとか持ちこたえた。基地の方に向きなおり、HS.404の機関砲を指令台へと向ける。
「オルタナ……貴様裏切るというのか? 何故、お前が——」
取り付けてあった回線からボスの声が聞こえる。私は反射的にそれを切った。今はエンジンの音だけ聞きたかった。
そのエンジンを動かすための鍵には、小さなキーホルダーがついていて。
お揃いだと言って、二人で買ったものだった。
今では一つになってしまったけれど、思い出は確かにそこにあった。
「ねぇ、ジル。私の命は尊かった?」
問いかける声に返事はない。しかし、それで良かった。
私は基地から離れ、最大速でその場を去った。カタパルトをロックしたため、追っ手が来るまでまだ時間があるだろう。
ようやくついたのは明け方だった。私はその忌まわしい場所——かつて駐屯地だった場所を上空から見下ろす。まさに無惨という言葉がぴったりだ。
しばらく探すうちに、目的のものを見つけた。私は近くに機体を降ろし、それにかけ寄る。
そこには、もう一人の私がいた。
壊れた機体にはお揃いのキーホルダー。その側で、彼は静かに眠っていた。冷たくなった手を重ねて、思考は閉ざされる。
追っ手が着いた頃には、美しい草花が二人を守るようにして咲き誇っていた。
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