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クロス  作者: LeoVart
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2-2 不思議な少年ダルク

「どうかしたの?」

 ネリシャが尋ねると、スピネルはピンクの目を細めながら遠くを指さした。「なんかちっちゃいのがこっちに来る……人かなぁ?あたしちょっと目悪くて見えにくいんだけど、ネリシャ何か分かる?」

 ネリシャはスピネルが指さす方向に目を凝らした。 最初、鳥かなんかだと思った。だが、豆粒のような影が弾丸のようなスピードでこちらに近づくにつれ、それがだんだん人の形になってきて、やがて目の前まで来ると立ち止まった。

 少年だった。黒っぽいコートに黒いシャツ。黒いズボン。黒いブーツ。すごく地味な銀色の長剣を背中にしょっている。ぶっちゃけ怪しい人だ。

 髪も真っ黒でぼさぼさだ。頭のてっぺんあたりから尖った狼の耳が立っていて、腰あたりからこれまたぼっさぼさのしっぽが生えていた。

 長めの前髪の奥の瞳は、グレーに近い色だった。星の光を反射してきらっと光る。表情は少し冷たく、厳しい感じに見えるが、その目はどこか優しそうだった。

 少年はネリシャたちに何かを言おうと口を開きかけた。だが、後ろでズシンという地響きを聞いて振り返った。

「ちっ……」

 これが少年の第一声(?)だった。

 黒ずくめの少年は、「岩場を通るんじゃなかったな……」と呟きながら背中の長剣を抜いた。足を開き、隙のない構えをとる。彼の目付きが険しくなった。

 闇のなかから現れたのは、体長が自分たちの4、5倍はあろうかという大きさの、体毛に覆われた獣のようなドラゴンだった。名前は確かルーヴの凶獣とかいう感じだった気がする。草原にある岩場に生息していて、主に夜活動する。クロスで見たことはなかったが、リアル(?)で初めて見ると本能的に恐怖がわいてくる。多分リアルジュラシックパークに迷いこんで餓えた肉食恐竜に出逢ってしまった感じだ。そんな巨大モンスターに対し、目の前で佇む少年は余りにもちっぽけで、一撃で死んでしまいそうに見えた。

 だが、心配して少年を見てみると、彼は余裕綽々だった。口元には不敵な笑みまで浮かんでいる。両者は互いを牽制するように睨み合っていたが、唐突に少年が動いた。5メートル程の距離を一瞬で詰め、ドラゴンの鋭い鉤爪をひょいっとジャンプして避けると凄まじい勢いで剣を振り抜いた。

 バシャァッというような音がして、少年の長剣で真っ二つにされたルーヴの凶獣の体が爆散した。眩い光があたりを白く染めた。

 ドラゴンの体は無数の光の欠片となって降り注ぎ、まるで雪のようだ。その中で、黒ずくめの少年は剣を振り抜いた姿勢のまま静かに立っていた。

 ネリシャは少年の余りの強さに唖然としながらも、何とも言えない不思議な気持ちになっていた。自分でも何故か分からないが、心が温かい。なんというか__初めてでどんな風に表現したら良いのか……安心に近いようなそれの名前を、ネリシャはまだ知らなかった。

 スピネルを見てみると、彼女はピンク色の目をいっぱいに見開き、猫耳としっぽがぴんと立っていた。その口から、「うわ〜……」と感嘆の声がもれた。

 少年は2人にお構い無しに剣の具合を確かめていたが、やがてぱちりと剣を背中に納め、ゆっくり振り向いた。さっきまで鋭い光を放っていた目が、うって変わって穏やかになっていた。

 黒ずくめの少年はぽりぽりと頭を掻いて、言った。「えっと……取り敢えず、大丈夫か?」

「え、あ、うん」

 異性にリアルで話しかけられるのは久しぶり過ぎて戸惑ってしまった。

 スピネルが尋ねた。

「キミ、誰?どーしてココに来たの?」

 その声には、少し警戒が込もっていた。

 少年は少しの間黙った後、答えた。

「俺は……ダルク。さっきアニキっていう人にお前ら2人を連れてきてくれないか、と頼まれた。お前らはネリシャとスピネルか?」 ネリシャは頷いた。アニキもこの世界に来ちゃってたんだ。でも、いつ?そんなことを考えながら、ネリシャは言った。

「私がネリシャで、こっちがスピネル」

 紹介された彼女は「スピネルだよ〜」と笑った。アニキの名前が出て警戒心が解けたようだ。と、スピネルは小さく「っぷし」とくしゃみをした。ネリシャは、今のダルクの物腰からは想像も出来ないようなさっきの戦闘を思い出した。

「そう言えば、さっきの君カッコよかったな。ヒーローみたいだったよ」

 ネリシャはそう言って、笑った。スピネルも「そーだねー」と笑顔になる。とても自然な、2人の笑み。

 この世界で初めて見せた、2人の笑顔だった。

 ダルクがちょっと頬を染めた。照れ隠しのつもりだろうか、また頭を掻く。どうやら彼のクセらしかった。その姿が可愛く見えて、ネリシャは思わず声をあげて笑った。不安や恐怖はどこかに消えていた。代わりにネリシャを満たしていたのは、あの不思議なくすぐったいような甘酸っぱいような気持ちだった。

 ダルクは赤くなった頬を隠すようにドームの建物の方を向き、ぶっきらぼうに言った。

「ついてきてくれ。アニキのいる場所まで案内する」

 彼は少し大股で歩き始めた。

 ネリシャとスピネルは立ち上がり、笑顔で彼についていった。

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