始まりの予感
私は横浜市に住んでいる。
私のことを知っている人は少ない。いるとしたら近所の人くらいで、学校にも行っていないから友達もない。家族もいない。両親のことなんて覚えてないし、兄弟もいない。
私は一人ぼっちだった。それでもよかった。このまま日常が続いて行けばいいと思った。それなのに、私の日常はある日音を立てて崩れ落ちた。
全てが狂い始めたあの日を、私は絶対に忘れない。
その日__。
いつものように隣街に出掛け、帰って来た近所の人が、こんなことを言った。
「あら、雪菜ちゃん。さっき電車に中であなたにそっくりな子がいたわよ」
「えっ………」
私は耳を疑った。
「最初は雪菜ちゃんかと思ったけど、雪菜ちゃんはいつもツインテールにしてるじゃない?髪型が違ったから。あと、目の色が違ってたわね。綺麗なオレンジっぽい赤だったの。凄く珍しい色だった。もしかして、双子?」
「そ……」
私が反応するのに少し時間がかかった。
「そんな訳ないよ!きっと見間違いだって!そ、そんなの聞いたことないし、双子だなんてそんな…それに…それに…」
おばさんは私の尋常ではない慌てようにびっくりしていたが、やがて自分に言い聞かせるように言った。
「そう…よね。きっとおばさんの見間違いだわ。ごめんなさい雪菜ちゃん、変なこと言っちゃって。…じゃあまたね」
そうして、おばさんは帰ってしまった。
自分の部屋に戻ってからも、私は混乱したままだった。ベットに倒れ込み、頭を抱えて目を閉じる。「そんなはずはない……そんなはずは…」
何度も呟く。
私は記憶をなくしていた。…いや、なくしたつもりでいた。そうしていたかった。5年前のことを。家族のことも。
私はしばらくそのままでいた。落ち着こうとしても上手くいかず、いつもの自分を取り戻すのに数分かかった。
どうにか落ち着いても、私の心臓はばくばくしたままだった。今日は眠れない日になりそうだ。
胸にモヤモヤしたものを抱えながら、何となくリビングに入った。コップに水を注いで一気に飲み干すとソファーにドサッと座る。
テレビをつけたが、特にみたい番組はない。
諦めてテレビを消そうとした時、いつも見ているニュースが目に止まった。
『子どもが次々に消失』
その時、何とも言えない嫌な予感がした。
アナウンサーが原稿を読み始めた。
「次のニュースです。今日の正午頃、川崎市の中学校で屋上に行っていた生徒が行方不明になりました。他の生徒の話によりますと、生徒たちが屋上に遊びに行ったあと、ガラスの割れるような音が聞こえ、何があったのか見に行ったところ、屋上にいた人全員が消えていたそうです…」