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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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血を吸う宇宙

掲載日:2026/07/16

戦いに臨む者は哀れにも、みんな「生も死も尊厳の元に訪れる」と信じて居る


もしかすると、この世で一人だけ

若年騎士隊の聖職者で在る僕だけが、事実を知って居た




雨が降り続いて居る


友軍の騎士達は負傷者まで含め撤退を完了し、敵軍もまた、総て斃れるか逃げるかした

拓けた土地の泥の上には、多くが鎧を纏って、肉の躰が乱雑に並んで居る


例外無く死んで居る様に思えたが、僕には嗅ぎ取る事が出来る

友軍の生存者が居た



死骸の折り重なった下から

生きて居る人間の呼気の匂い、そして生者の呼吸の音が聴こえる


僕自身も

多少は先程の戦闘に依る負傷が在ったが、気になら無かった

鎧を着た死んだ人間は、ただ横に転がすだけでも一苦労だったが、生存者には代えられ無い


やっとの事で死骸を総て除けると、その下敷きにされて居た、若年騎士隊の少年の虚ろな表情が視えた


呼吸が足りないのか、眼と口を大きく開いて微かに息をして居る

適切な治療が無ければ、もう長く無さそうだった



鞄から汚れて居ない布を出し、顔を拭う

肩を貸して死躰の山から立ち上がらせると、少年は「あ…りが…と……う…」と、絶え絶えに答えた


その時気付いたが、僕たちは少年騎士として互いに同じ隊で在り、面識が有った



「自分で解る………」


「きっともう、僕は死ぬから……」



「最期に、僕の為に祈って呉れないか………」


視線の横で、少年が雨に打たれながら言う



僕は何も言わなかった


視線の先で平野が終わり、友軍の陣が近くもなんともない森が視えてくる

死にかけた少年騎士が不審に思い始めた頃


僕は彼を泥の上に投げ飛ばして、抵抗する少年の顔を殴りながら、鎧を一つ一つ剥ぎ取って捨てた


噎せ返る様な血の匂いが、鼻を突く

もう我慢の限界だった



人間の喉と云うのは噛み破る際、特有の音がする


其れについて語るには僕は言葉を知らな過ぎるが、少年の喉の食感についてなら語る事が出来る

此れは、戦場では少年兵が直ぐに死ぬ事ととも関係して居るのかも知れない

(いず)れにしても彼の喉は、柔らかく濡れそぼりながらも内には筋肉の弾力が厳然として存在して居て、何より美味だった


渇きが癒されて冷静になった思考の中で、彼の血の色を吟味する

『戦場』と云う、かくも劣悪な場に在りながら

少年の血は赫赫(かっかく)と紅く、淫靡に芳香する


僕は思った

「人が、こんなに甘い血を育むのは」


「きっと、僕の舌を愉しませる為なのだ」と



僕に組み敷かれた躰の、その弱々しい拳が

力無く僕を殴打して居た


「化け…物……!」


死にかけた人間の子供の、何処に力が残されて居るのか、幼くも騎士で在る者は僕を真っ直ぐに睨みながら、手脚をばた付かせ、一向に通用しない微力な反撃を繰り返して居た



「───力」


「弱いんだね」


僕を繰り返し打って居る手首を、掴んで握る

言いながら瞳を覗き込むと、少年は抵抗を止め、恐怖の様にも絶望の様にも視える表情をした


考えてみれば

彼にこんな冷めた視線を僕が向けるのは、出会ってから初めての事だった



腹立ち紛れに

片手で顔を押さえ付けて地面に後頭部を幾度か押し付けると、其れだけで少年は死んだ


───早く飲み終えよう


死後硬直が始まって仕舞えば、格段に血は飲み(にく)く成る




雨が降り続いて居る


僕は、友軍と合流する際の言い訳を頭の隅で考えながら、糸の切れた操り人形の様になった幼い躰を抱いて、今度は肩を食い破った

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