伊達軍猛嵐
タイトル:氷原における最後の狂気
スネージナヤ城の祝賀の鐘が三回鳴り響いた直後、勝利の知らせは春の融雪のように、鉄と氷で築かれたこの都市のあらゆる通りに瞬く間に広がった。庶民は街へ繰り出し、子供たちは積雪の中ではしゃぎ、鍛冶場の炉はいつもより激しく燃え上がっていた——伊達政宗の侵攻と戦った勇士たちのため、新しい勲章を急いで鍛造しているのだ。
だが首都から北東三百里の「永凍裂谷」には、祝賀の空気は届いていなかった。
タルタリヤは臨時に指揮車へ改造された雪原戦車の上に立ち、強化ガラス越しに裂谷の向こうの山稜を眺め渡す。朝の光は分厚い雲層を難儀しながら突き抜け、銀に覆われた山々にくすんだ黄金の縁を染める。彼の水色の瞳には勝利後の安らぎなど一切なく、捕食者のような鋭い警戒心だけが煌めいていた。
「第十一執行官殿、全ての戦車部隊は配備完了、スキー部隊は両側の高台に伏兵として待機しております」一人の愚人衆士官が敬礼し報告する。「しかし…敵は本当に来るのでしょうか?伊達成実に残るのは二万の残兵だけ、この時分なら逃げるはずなのですが」
タルタリヤはすぐには答えなかった。前夜、伊達軍捕虜から尋問して得た情報が蘇る——主君の戦死を知った男、伊達政宗の従弟である伊達成実は、涙も悲鳴も上げず、黙々と手の刀を磨き上げ、残った部下たちにこう告げたのだ。
「政宗公の遺志、俺が継ぐ。明日の明け方、決死突撃を敢行する」
「狂人だ」当時のタルタリヤの評価はそれだった。
だが今、裂谷の淵に立ち、空気に充満した実体を持つかのような決死の覚悟を肌で感じ、彼の考えは変わった。
「狂人ではない」タルタリヤは独り言のように低く呟く。「殉教者だ。彼らは死ぬことを承知しながら、最も壮絶な形で散る道を選ぶ。ただ一つ証明したい——伊達の一族に臆病者は一人もいない、と」
士官は理解に苦しむ。「それに何の意味があるのでしょう?」
「意味?」タルタリヤは残酷な称賛を含んだ笑みを浮かべる。「戦場において、時に『意味』は『勝利』より重い。彼らは自らの血でスネージナヤの雪原に『伊達』の二文字を刻み、後世に知らしめる。この一族が滅ぶ時も、背筋を伸ばしたまま滅んだ、と」
彼は身を翻し、士官に命令を下す。「全部隊に伝令せよ。敵は自爆攻撃を仕掛けてくる。戦車から五十歩以内に近づけてはならない。機関銃と氷元素砲台で遠距離から殲滅せよ」
「しかし殿、それでは捕虜は一人も取れません…」
「捕虜など必要ない」タルタリヤは言葉を遮る。「この茶番を完全に終わらせたいだけだ。伊達の血筋は、ここで終止符を打つべきだ」
命令は瞬く間に伝達された。永凍裂谷の両側、五十輌の雪原戦車が弧を描く陣形を敷き、砲塔が回転、銃口が予熱される。高台には二千名のスキー部隊兵が特製の狙撃クロスボウと元素発射器を構える。裂谷全体は精巧に仕掛けられた死の罠と化し、獲物が踏み込むのを待ち構えていた。
彼らの待ち時間は長くはなかった。
明け方、第一筋の陽光が雲を突き破った瞬間、山稜に人影が現れた。
一人ではない、十人でもない、何万もの人々だ。
伊達成実が隊列の一番先頭を進む。伊達政宗と同じ濃い紺色の具足を身に着けているが兜はかぶらず、北風に黒い長髪をなびかせる。手には「影秀」によく似た大太刀を握り、刀身は朝の光を受けて冷たく物悲しい輝きを放つ。
その背後には、伊達軍最後の兵士二万人が続く。衣類はぼろ切れ同然、多くの者は包帯を体に巻き、凍傷で頬が不自然な紫紅色に染まっている。だが彼らの瞳——タルタリヤが望遠鏡で鮮明に捉えたその瞳には、恐怖も絶望もなく、宗教的な狂気に近い断固たる決意だけが宿っていた。
さらに心を凍らせるのは彼らの装備だ。一人一人の腰に粗製の火薬筒が何本も縛りつけられ、手には焼き瓶を握り、中には燃料油を満載した大樽を背負った兵士さえいる。
「全て焼き払うつもりか…」タルタリヤは呟く。
山稜の上、伊達成実は刀を高く掲げる。開戦前の演説も熱弁も一切なし、全身の力を振り絞り三文字を絞り出す。
「伊達のために——!」
「伊達のために!!!」二万人の声が一斉に響き渡り、谷間に反響し、一瞬風の音さえ覆い隠す。
そして突撃が始まった。
これは通常の攻撃ではない。陣形も戦術も掩護も一切なし。二万人が決壊した洪水のように山稜からなだれ落ち、裂谷の向こうのスネージナヤ軍陣地へ自爆突撃を仕掛ける。
「射撃開始!」タルタリヤが命令する。
雪原戦車の機関銃が一斉に轟き、金属の嵐が突撃する人々を薙ぎ払う。高台の狙撃クロスボウと元素発射器も攻撃に加わり、氷柱、火矢、雷が織り成す死の網が広がる。
突撃する伊達兵は次々と倒れる。銃弾に貫かれ、氷柱に突き刺さり、炎に飲まれ…だが彼らは止まらない、減速さえしない。倒れた仲間は後続の足場となり、血が雪原を染め、死体が山を成すのに、突撃の波は一波また一波と途切れない。
「狂っている…全員狂っている」若いスネージナヤ狙撃手の声が震える。十五六歳に見える伊達の少年を撃ち落としたばかりで、その子は倒れる際に手の焼き瓶を砕き、自身を火の玉にして燃え尽きた。
「落ち着け!射撃を続けろ!」士官が声を嗄らして命令する。
突撃と陣地の距離は縮まっていく。八百歩、五百歩、三百歩…
ついに最初の伊達兵が戦車陣地から百歩以内まで迫る。彼らは体に巻いた火薬と焼き瓶に火を点け、最後の咆哮を上げ、最も近い目標へ飛びかかる。
「ドゴーン——!」
「ドカン!ドカン!ドカン!」
爆発が連鎖的に響き渡り、炎が夜明け前の暗闇を照らす。数輌の戦車が至近距離の爆発で大破し、装甲は歪み、砲塔は傾く。さらなる伊達兵が後を絶たず、自身を武器として自爆で突破口を開こうとする。
「第二防衛線、氷元素砲台一斉射撃!」タルタリヤは冷徹に指揮する。
戦車上部の氷元素砲台が充填を開始し、砲口に蒼い光が凝縮する。次の瞬間、数十本の氷霜光線が一斉に飛び出し、陣地前に百歩幅の氷の壁を形成する。氷壁の範囲に踏み込んだ伊達兵は瞬く間に凍り固まり、後続の銃弾で砕け散る。
それでも突撃を食い止めることはできなかった。
伊達成実が真っ先に突進する。彼は自身に向けて飛んでくる氷柱を刀で薙ぎ払い、機関銃の弾丸をかわし、銃弾の雨の中を幽霊のように駆け巡る。太刀「村正」は彼の手の中に生命を宿したかのように、一振り一振りスネージナヤ兵の命を奪う。
「あの男…伊達成実だ!」タルタリヤは彼を見分ける。「全火力、あいつに集中せよ!」
だが伊達成実は驚異的な武芸と運を見せる。弾雨の中を転がり身をかわし、仲間の死体を掩護とし、氷の壁を突破し、タルタリヤの指揮車から三十歩足らずの場所まで迫る。
「スネージナヤの執行官よ!」伊達成実は寒さと興奮で掠れた声で叫ぶ。「伊達成実、一戦を請う!」
タルタリヤは笑みを浮かべ、車のドアを押し開けて雪原へ飛び降り、水元素の双刀を手に現出させる。
「望み通りにしてやる」
爆発と銃声が響く背景の中、二人の決闘が始まる。伊達成実の刀法は苛烈で狂暴、一振り一振り相打ち覚悟の勢いを宿す。タルタリヤは水中の魚のように柔軟に身をかわし、刀光の隙間を縫うように移動し、双刀は水の流れで敵を拘束したり、氷刃に凝結させ突き刺したりする。
「貴殿の武芸は見事だ」攻防の合間にタルタリヤが語る。「なぜわざわざ死にに来る?」
「生きている伊達成実に意味などない!」伊達成実は怒鳴り、刀の勢いがさらに激しくなる。「政宗公は死に、小十郎は死に、伊達の精鋭は全滅した!残るのは恥辱だけだ——血でしか洗い流せぬ恥辱だ!」
「血で血を洗えば、血はさらに流れるだけだ」タルタリヤは一刀を払い、氷刃で伊達成実の肩に傷をつける。
「なら全て流し尽くせ!」伊達成実は傷を顧みず猛攻を続ける。「伊達の血を、スネージナヤの血を、この世界の全ての血を!誰もが悟るまで——侵略者には代償が伴うことを!」
タルタリヤは眉を寄せる。「我々のことを言っているのか?最初にスネージナヤへ侵攻したのは貴殿たちだ」
「それが何だ?」伊達成実は狂ったように高笑いする。「弱肉強食、天地の道理だ!今日は貴殿たちが勝ったから正しいと言う。もし我々が勝てば、歴史は我々の手で書かれる!」
「狂人め」タルタリヤは余計な言葉をやめ、全霊で攻め立てる。
二十合過ぎ、伊達成実に隙が生まれる。刀法は狂暴だが体力の消耗が激しく、体に縛った火薬と焼き瓶が動きを制限している。タルタリヤは隙を突き、氷刃を彼の左足に突き通す。
伊達成実は片膝をつくが、刀で体を支え、倒れない。
「殺せ!」彼は吼える。「武士らしく戦死させろ!」
タルタリヤは刀を掲げるが、突然動きを止める。彼は伊達成実の瞳に映る真実を見た——死を求めているのではなく、解放を渇望しているのだ。
「貴殿は生きるのが辛いから死を求めている」タルタリヤはゆっくり語る。「伊達の一族が滅んだ未来を受け入れられないのだ」
伊達成実は彼を睨み、白目をむく。「余計なことを言うな!早く手を下せ!」
だがタルタリヤは刀を収める。「いやだ」
「何?」
「死を望む人間は斬らない」タルタリヤは身を翻す。「故郷へ生きて帰れ。伊達がどのようにスネージナヤで滅んだか、全ての者に伝えろ。侵略の夢を見る者たちに、これが末路だと知らしめろ」
伊達成実は呆然とした後、狂ったように大笑いする。「ハハハ…哀れむ?俺を哀れむのか?要らない、一切要らない——」
彼は突然着物を引き裂き、火薬がびっしり巻きついた胴体を曝す。導火線に火がつき、シューシューと音を立てて燃えている。
「なら共に死ね!」
タルタリヤの瞳が収縮、瞬時に後退しつつ水元素の盾を張る。だが伊達成実は既に飛びかかっていた——
「ドッカーン!!!」
激しい爆発が二人を同時に飲み込む。衝撃波は近くの戦車を何輌もひっくり返し、炎が空高く舞い上がり、雪は溶けて下の黒い凍土が露出する。
煙が晴れた時、爆発の中心には焦げた大きなクレーターだけが残る。伊達成実の体は微塵に砕け散り、太刀「村正」だけが半分凍土に突き刺さり、刀身に亀裂が走るものの、依然として屹立していた。
タルタリヤは砕けた水の盾の中から立ち上がる。左腕に骨まで届く深い傷が走り、血が袖を真っ赤に染める。彼はクレーターを眺め、長い間黙り込む。
「少なくとも…自らの最期を選べたのだ」
伊達成実の死と共に、伊達軍最後の抵抗は完全に崩壊する。残った兵士たちは突撃を続けるものの魂を失い、ただ機械的に死へ赴く動作を繰り返す。スネージナヤ軍は秩序良く戦場を掃討し、銃声、爆発音、悲鳴は次第に薄れ、やがて完全な静寂が訪れる。
正午、戦闘は完全に終結する。二万の伊達残兵は全員戦死、一人も降伏せず、一人も逃亡しなかった。永凍裂谷は巨大な墓場と化し、死体が山積みになり、血は雪を溶かした後、極寒で再び凍り、暗紅色の氷の層を一面に形成する。
タルタリヤは裂谷の淵に立ち、凄惨な光景を眺める。勝利の喜びは既に消え失せ、重苦しい疲労だけが胸に迫る。
一人の士官が報告に訪れる。「殿、戦場の整理は完了しました。敵兵は全員戦死と確認。我が軍は戦車八輌を喪失、死傷者千二百余人です」
「全ての死者を厚く葬れ」タルタリヤが命令する。「敵も同じだ。彼らは皆、戦士だ」
「しかし殿、彼らは…」
「命令だ」タルタリヤは言葉を遮る。「伊達成実の刀も回収し、遺体の破片と共に埋葬せよ」
士官は敬礼して立ち去る。タルタリヤが一人佇んでいると、アルレッキーノが別の指揮車に乗って到着する。
「傷を負っているな」アルレッキーノは彼の血まみれの左腕を見て告げる。
「大した傷ではない」タルタリヤは気にも留めない。「伊達の一族、完全に滅んだ」
アルレッキーノは戦場の方を眺め、赤い瞳に一切の起伏はない。「侵略者に相応の末路だ。だが彼らの狂気…記録に値する」
彼女は懐から黒いノートを取り出し、素早く文字を書き留める。タルタリヤが横目で覗くと、こう記されていた。『伊達一族の末路、二万人の自爆突撃、全員玉砕。その狂気と断固たる覚悟は、極端な武士道精神を研究する資料として活用できる』
「貴殿は本当に…客観的だな」タルタリヤは苦笑する。
「戦争には客観性が必要だ」アルレッキーノはノートを閉じる。「感情は判断を曇らせる。だが…」
彼女は一瞬言葉を切り、稀に人間らしい感慨を漏らす。「この末路は、捕虜となり、降伏し、恥辱の余生を過ごすよりはましなのかもしれない。少なくとも、自らの終焉を選べたのだ」
タルタリヤは頷き、南の方を眺める。そちらにはスネージナヤ城があり、さらに遠くに璃月、スメール、フォンテーヌが広がっている。
「伊達は滅んだが、戦争は終わらない。織田信長、武田信玄、上杉謙信…まだ多くの勢力が残っている」
「なら来させればよい」アルレッキーノの声は再び冷徹に戻る。「スネージナヤの氷は、何万もの侵略者を埋めるのに何のためらいもない」
彼女は身を翻して立ち去り、灰色の長髪が冷たい風になびく。
「都へ戻ろう。女皇陛下は不在だが、スネージナヤは存在し続ける。我々にはやるべき多くの事が残っている」
タルタリヤは最後に永凍裂谷、血に染まった雪原、異国の地に永遠に眠る亡霊たちを眺める。
それから身を翻し、指揮車に乗り込む。
車両はエンジンをかけ、激戦の地を離れて走り出す。車の後ろではスネージナヤ兵が死体を回収し始め、敵味方を分け隔てなく埋葬する。これがスネージナヤの伝統——敵であろうと、戦士である限り敬意を払う。
この残酷な世界において、最後の瞬間まで戦い抜く勇気そのものが、称えるに値するものだからだ。
永凍裂谷に静寂が戻る。風だけが咽び泣くように響き、死者たちのための挽歌を歌っている。
遠いフォンテーヌで、織田信長は伊達一族全滅の報を受け取ると、軽く頷いただけだ。
「政宗、成実…二人とも逝ったか」彼は窓の外、スネージナヤの方を眺める。「好都合だ。俺自身が一掃する手間が省けた」
彼は身を翻し、背後の浅井長政に告げる。
「全軍に伝令せよ。目標は璃月の層岩巨淵。この戦争、終結させる時が来た」
盤上の碁は最終盤に突入し、最後の決戦が間もなく幕を開ける。
テイワットの運命は、層岩巨淵の岩壁の間で、最終的な裁きを迎えることになる。




