シーン8 空のノイズ
静止した舞踏ホール。
誰も動かない。
音もない。
凍りついた時間の中で、
レティシアだけが立っていた。
ゆっくりと歩く。
大理石の床に、彼女の足音だけが響く。
レティシアは舞踏ホールの端へ向かった。
高い窓。
王城の外を見渡せる大きなガラス窓。
そこから夜の空が見える。
レティシアは静かに視線を上げた。
夜空。
深い紺色の空。
そこに、無数の星が瞬いている。
美しい光景だった。
だが。
その静かな夜空に――
突然、
異変が起きる。
星のひとつが、
ちらりと揺れた。
まるで光が乱れたように。
レティシアの瞳がわずかに細くなる。
そして。
次の瞬間。
夜空の星が、
一斉に点滅した。
瞬きのような、短い光。
だがそれは自然の星の輝きではない。
光が乱れる。
消える。
また現れる。
まるで――
ノイズ。
画面に走る映像の乱れのような、不自然な瞬き。
夜空全体が、
一瞬だけ
バグった。
次の瞬間。
星は元に戻る。
何事もなかったかのように、
静かな夜空が広がっている。
普通なら、
ただの見間違いで終わる光景。
しかし。
レティシアはそれを、
はっきりと見た。
静かに呟く。
「……」
声は出ない。
ただ、視線だけが夜空に向けられている。
その瞳には、
確かな理解が浮かび始めていた。
この世界は今、
ただ異常が起きているのではない。
もっと根本的な何かが、
壊れ始めている。
まるで。
一つの巨大な装置が、
内部から崩れ始めているかのように。




