シーン7 世界の警告
赤い文字はまだ消えない。
むしろ、次々と増えていく。
まるで、この世界のどこかにある見えない装置が、状況を必死に報告しているかのようだった。
そして――
新しい文字が浮かび上がる。
WORLD STABILITY LOW
CRITICAL ERROR
世界安定性低下。
致命的エラー。
その表示が現れた瞬間。
――ふっ。
舞踏会の音が、再び消えた。
だが、今度は違う。
先ほどの一瞬ではない。
もっと長い。
音楽が止まり、
会話が途切れ、
グラスの音も消える。
静寂。
完全な無音。
レティシアはゆっくりと周囲を見る。
その瞬間。
彼女は気づいた。
人々の動きが止まっている。
令嬢がグラスを持ち上げた姿のまま。
貴族が笑いかけたまま。
踊っていた男女が回転の途中で。
すべてが――
止まっている。
まるで時間そのものが凍りついたかのようだった。
レティシアはゆっくりと一歩動く。
足音が、大理石の床に小さく響く。
その音だけが、この広い舞踏ホールに存在していた。
周囲の人々は動かない。
瞬きもしない。
呼吸すら感じられない。
完全な静止。
レティシアの瞳が、わずかに揺れる。
(……時間停止?)
だが違う。
時間が止まったのではない。
この世界の何かが、
処理を止めた。
そんな感覚だった。
レティシアはゆっくりと顔を上げる。
赤い文字が、まだ空中に浮かんでいる。
WORLD STABILITY LOW
CRITICAL ERROR
世界の安定性が低下。
致命的なエラー。
その表示の意味を、
レティシアは静かに理解し始めていた。
この世界は今、
正常に動いていない。
そして。
この凍りついた空間の中で、
自由に動いているのは――
レティシアただ一人だった。




