シーン4 文字の増殖
赤い文字は、まだ消えない。
空中に浮かび、
静かに点滅している。
SYSTEM ERROR
WORLD CODE FAILURE
レティシアはそれを見つめたまま動かない。
その意味を理解しようとするように。
すると。
――ピッ。
小さな音が、耳の奥で鳴った気がした。
次の瞬間。
赤い文字が、さらに増える。
空間に新しい文字列が表示される。
EVENT ROUTE COLLAPSED
VILLAINESS SCRIPT BROKEN
文字は無機質に並んでいた。
感情も、説明もない。
ただ事実だけを表示する、機械の報告のような文章。
レティシアの視線が、その言葉を追う。
EVENT ROUTE COLLAPSED
イベントルート崩壊。
そして。
VILLAINESS SCRIPT BROKEN
悪役令嬢の脚本が壊れた。
その瞬間。
レティシアの思考が、静かに繋がる。
(……そういうこと)
彼女はゆっくりと息を吐いた。
舞踏会の出来事。
王太子の断罪。
証言の崩壊。
偽造された告発。
そして、
自分の反撃。
すべてを思い返す。
そして気づく。
この世界には、
決められた展開があった。
悪役令嬢が断罪される。
婚約が破棄される。
社交界から追放される。
それが――
本来の物語。
本来の脚本。
だが。
レティシアはそれを覆した。
証言を崩し。
証拠を提示し。
論理で断罪そのものを否定した。
つまり。
本来起こるはずだった展開。
悪役令嬢断罪イベント。
それが。
破壊された。
レティシアの瞳が、わずかに細くなる。
空中に浮かぶ赤い文字が、静かに点滅している。
EVENT ROUTE COLLAPSED
VILLAINESS SCRIPT BROKEN
その表示はまるで、
この世界のどこかに存在する「何か」が、
事態を報告しているようだった。
だが。
舞踏会は続いている。
誰も気づかない。
音楽は流れ、
貴族たちは笑い、
世界はいつも通り動いている。
しかし。
その裏側で、
確実に
何かが壊れ始めていた。




