シーン3 視界の歪み
その瞬間だった。
――ふわり。
空気が、わずかに揺れた。
レティシアの視界の端で、空間が歪む。
まるで水面に石を落としたときのように、透明な波紋が静かに広がる。
床。
シャンデリアの光。
踊る人影。
すべてが一瞬だけ揺らいだ。
レティシアは思わず瞬きをする。
だが。
歪みは消えない。
むしろ――
ゆっくりと広がっていく。
空間の表面が、薄い膜のように震えていた。
(……何?)
その時。
レティシアの視界の中央に、
突然、
赤い文字が現れた。
空中に浮かぶ、見慣れない文字列。
それは、まるで誰かが透明な空間に直接書き込んだかのように表示されていた。
SYSTEM ERROR
WORLD CODE FAILURE
レティシアの瞳が、わずかに見開かれる。
心臓が一拍だけ強く鳴った。
だが。
彼女は声を上げない。
ただ静かに、その文字を見つめる。
赤い光は淡く点滅していた。
しかし。
周囲の世界は何も変わらない。
楽団は演奏を続けている。
貴族たちは笑い、
グラスを傾け、
踊る者たちは音楽に合わせて回っている。
誰も空を見上げない。
誰も驚かない。
つまり――
誰も見えていない。
この赤い文字を。
レティシアはゆっくりと周囲を見渡す。
反応はない。
完全に、いつも通りの舞踏会だ。
再び視線を戻す。
空中に浮かぶ赤い文字。
SYSTEM ERROR
WORLD CODE FAILURE
それは確かに存在している。
だが。
この異常を認識しているのは、
この広い舞踏ホールで――
レティシアただ一人だった。




