シーン2 時間のズレ
舞踏ホールには再び音楽が流れていた。
弦楽器の柔らかな旋律。
軽やかなリズム。
まるで先ほどの出来事など最初から存在しなかったかのように、楽団は演奏を続けている。
貴族たちの会話も止まらない。
「それで公爵家はどう動くんだ?」
「王太子殿下も困っただろうな」
「しかしあの令嬢……」
ざわめきは続き、舞踏会はそのまま進んでいく。
何も変わっていない。
少なくとも――
周囲の人々にとっては。
だが。
レティシアはその場に立ったまま、わずかに目を細めていた。
胸の奥に残る、説明できない違和感。
先ほどの瞬間。
確かに。
音が消えた。
ほんの一瞬。
しかし、はっきりと。
レティシアはゆっくりと視線を動かす。
楽団。
踊る貴族たち。
会話を続ける令嬢たち。
誰一人として不思議そうな顔をしていない。
誰も周囲を見回していない。
つまり――
誰も気づいていない。
レティシアの思考が静かに動く。
(時間が……)
ほんのわずかに、止まった。
そんな感覚だった。
音だけではない。
空気も。
空間も。
すべてが一瞬だけ静止したような感覚。
だが。
それを認識したのは、
この舞踏ホールで
自分だけ。
レティシアはゆっくりと息を吐く。
視線を少し下げ、
静かに考える。
(今のは……?)
単なる錯覚なのか。
それとも。
別の何かか。
答えはまだ出ない。
だが。
胸の奥には、確かな感覚が残っていた。
世界のどこかで、
ほんのわずかに
歯車がズレたような感覚。
レティシアの瞳が、静かに揺れる。
そしてその直後。
彼女の視界に、
さらに奇妙な現象が現れ始める。




