シーン8 レティシアの理解
静止した世界。
赤い文字。
夜の王都は、
まるで絵画のように止まっている。
その中で、
レティシアだけが立っていた。
視界の中央には、
不気味な表示。
RECALCULATING STORY
SEARCHING NEW ROUTE
ゆっくりと点滅する文字。
まるで、
何かが思考しているようだった。
レティシアは目を閉じる。
そして、
頭の中で整理を始める。
――この世界は。
ただの現実ではない。
それは、
今までの違和感が
すべて繋がる瞬間だった。
王太子。
平民の少女。
悪役令嬢。
舞踏会での断罪。
婚約破棄。
すべてが、
あまりにも
典型的だった。
物語として、
あまりにも整いすぎている。
つまり。
この世界は――
物語。
そして、
自分の役割。
レティシア・アルヴェルン。
公爵令嬢。
王太子の婚約者。
社交界で恐れられる存在。
噂。
誤解。
そして、
舞踏会での断罪。
それは、
はっきりしている。
悪役令嬢。
それが、
この世界における
彼女の役割だった。
本来なら。
今日の舞踏会で、
すべてが終わる。
断罪される。
婚約破棄される。
社交界から追放される。
そして、
ヒロインが勝利する。
それが、
用意された結末。
だが。
レティシアはゆっくりと目を開く。
赤い文字が、
まだ点滅している。
彼女は静かに呟いた。
「……なるほど」
小さな声。
しかし、
確信のこもった声。
「そういう構造なのね」
この世界は物語。
自分は悪役令嬢。
断罪されるはずだった。
だが。
レティシアの視線が、
ゆっくりと赤い文字へ向く。
EVENT ROUTE COLLAPSED
その意味は、
はっきりしている。
彼女は、
静かに微笑んだ。
ほんのわずかな、
鋭い笑み。
「つまり」
そして、
静かに言う。
「私が壊したのね」
この物語を。




