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シーン3 世界のノイズ
馬車は夜の街を進んでいる。
石畳。
街灯。
遠くの家々の灯り。
すべてが静かに流れていく。
レティシアは窓の外を見つめたまま、
思考を続けていた。
――物語が少しだけ狂っている。
その違和感の正体を、
掴みきれないまま。
その瞬間だった。
……ふっ。
視界が、
わずかに歪んだ。
レティシアの眉が動く。
今、
何かがおかしかった。
窓の外の街灯。
その光が、
一瞬だけ揺らいだように見えた。
まるで、
水面に映った影のように。
「……?」
彼女は瞬きをする。
だが、
次の瞬間。
――ビリッ。
空気が震えた。
ほんの一瞬。
目に見えない何かが、
世界を横切ったような感覚。
馬車の揺れが止まる。
車輪の音も消える。
セシリアの呼吸も。
街の灯りも。
すべてが、
止まった。
時間が。
止まっていた。
レティシアの瞳がわずかに開く。
馬車の外を見る。
街灯は揺れていない。
炎も動かない。
風もない。
夜の街は、
まるで絵のように静止している。
完全な沈黙。
完全な停止。
そして、
レティシアだけが、
動いていた。
彼女はゆっくりと手を上げる。
指先が震えている。
――これは何?
その瞬間。
視界の端で、
何かがちらついた。
まるで、
壊れた魔法陣のような
奇妙なノイズが。




