シーン2 レティシアの独白
馬車は静かに夜の王都を進んでいた。
石畳を叩く車輪の音が、
一定のリズムで響いている。
向かいに座るセシリアは、
まだ先ほどの言葉を整理できていない様子だった。
「断罪イベント」
その単語の意味が、
理解できないのだろう。
当然だ。
レティシア自身も、
最初は理解できなかったのだから。
彼女は窓の外を眺めながら、
静かに思考を巡らせていた。
――この展開は知っている。
王太子。
平民の少女。
悪役令嬢。
そして舞踏会での断罪。
婚約破棄。
あまりにも典型的な流れ。
どこかで見たことがある。
そう。
ゲームのイベントに似ている。
レティシアの記憶の奥に、
ぼんやりとしたイメージがある。
乙女ゲーム。
悪役令嬢。
断罪ルート。
物語の中で、
必ず起きる出来事。
ヒロインを虐めた悪役令嬢が、
舞踏会で断罪される。
王太子が婚約を破棄し、
ヒロインと結ばれる。
それが、
「正しい物語」。
今日起きた出来事は、
まさにその流れだった。
だから、
彼女は準備していた。
証拠を。
論理を。
反論を。
断罪されることを、
前提に動いていた。
だが。
レティシアは目を細める。
――少し違う。
完全に同じではない。
本来なら、
悪役令嬢は反論できない。
証拠もない。
味方もいない。
ただ追い詰められて終わる。
それが、
物語の構造。
だが今回は違った。
証拠が残っていた。
魔法記録。
日誌。
使用人の証言。
まるで、
反論できるように世界が作られているようだった。
レティシアは小さく息を吐く。
違和感。
それは小さい。
だが、
確実に存在していた。
まるで――
物語が少しだけ狂っているような感覚だった。




