シーン10
夜。
舞踏会は終わりを迎えていた。
アルヴェルン公爵家の馬車が、
王都の石畳を静かに進んでいく。
車輪の音だけが、
夜の街に響いていた。
馬車の中には二人。
セシリア・アルヴェルン。
そして、
レティシア・アルヴェルン。
しばらくの間、
二人は黙っていた。
舞踏会で起きた出来事は、
あまりにも大きかった。
婚約破棄。
公開断罪。
そして、
完全な逆転。
社交界の空気は、
一夜で変わった。
だが、
セシリアの頭の中には、
別の疑問が浮かんでいた。
彼女はゆっくりと妹を見る。
レティシアは窓の外を眺めている。
いつもと変わらない、
落ち着いた表情。
セシリアは口を開いた。
「あなた……」
レティシアが視線を向ける。
セシリアは少し迷ってから言った。
「最初から分かっていたの?」
沈黙。
馬車の中に、
わずかな揺れが続く。
レティシアはしばらく何も言わなかった。
やがて。
小さく微笑む。
それは、
舞踏会で見せていた微笑と同じだった。
そして、
静かに答える。
「ええ」
短い返事。
セシリアの眉がわずかに動く。
「どうして?」
レティシアは少しだけ肩をすくめた。
まるで、
当然のことを言うように。
そして、
一言だけ言った。
「断罪イベントですもの」
……沈黙。
セシリアは言葉を失った。
断罪。
イベント。
その言葉の意味が、
うまく繋がらない。
レティシアは再び窓の外を見る。
夜空。
王都の灯り。
その瞳には、
どこか遠くを見るような色があった。
まるで――
この世界の先を知っているような。
馬車は静かに、
闇の中を進んでいく。
そして物語は、
まだ終わらない。




