シーン8 社交界の評価
静かなざわめきが、
舞踏ホールの中でゆっくりと広がっていく。
先ほどまでこの場を支配していたのは、
断罪の空気だった。
疑い。
非難。
そして嘲り。
そのすべては、
レティシア・アルヴェルンへ向けられていた。
だが今。
空気は完全に変わっていた。
貴族たちは、
彼女を見ている。
その視線には、
もう疑いはない。
代わりに浮かんでいるのは、
別の感情だった。
一人の老伯爵が小さく呟く。
「……見事だ」
その声は低かったが、
周囲の者にはよく聞こえた。
別の貴族が頷く。
「理性的だな」
さらに別の声が重なる。
「感情で動かない」
「証拠と論理で話した」
「公爵令嬢らしい振る舞いだ」
その評価は、
ゆっくりと広がっていく。
社交界では、
振る舞いがすべてを決める。
怒りに任せて叫ぶ者。
権力を振りかざす者。
そんな人物は珍しくない。
だが。
レティシアは違った。
断罪された。
名誉を傷つけられた。
それでも彼女は取り乱さない。
証拠を出し、
論理で反論し、
最後は争いを収めた。
その姿は、
まさに理想的な貴族の振る舞いだった。
令嬢たちの間でも囁きが広がる。
「すごいわ……」
「冷静すぎる」
「まるで最初から全部分かっていたみたい」
別の令嬢が小さく言う。
「悪役令嬢なんかじゃない」
「本物の令嬢よ」
その言葉に、
何人もの者が頷いた。
舞踏ホールの中央。
レティシアは変わらず静かに立っている。
だが、
その立場は完全に変わっていた。
ほんの少し前まで、
彼女は断罪される側だった。
しかし今。
社交界の評価は、
完全に逆転していた。




